生成AI時代の知的創造の技術:「KM法2.0」公式マニュアル

目次

第4部:情報収集とデジタルソース化 ── インプット革命

第9章:生成AIのソースに適したデジタルファイル。

 生成AIは、ウェブ上のすべての情報、PCを通して外部からソースとして取り込んだあらゆる情報を、デジタル化した形でしか受け取ることができません。ウェブ上のソースは、もともとデジタル化されているので問題ありませんが、印刷物とか外部のアナログ記録媒体で制作された写真、映像、音楽などは、スキャナとかパソコンのアプリなどを使ってデジタル変換してからインプットしなければなりません。また、デジタル化されている場合でも、生成AIが認識できるファイルの種類や容量には各種の制限があります。これらについての知識を正確に理解し、かつ、効率的にインプットすることによって、初めて生成AIによる効率的な知的創造が可能になります。これが、KM法2.0の提唱する「インプット革命」です。

9-1 : 知識源としての生成AIの特質

1. 膨大な知識量

 生成Aiは、インターネット上のウェブサイト、書籍、論文などのデータを学習しているため、一般の人々や専門家よりも多くのソースから知識を得ることができます。したがって、ごく最近のニュースや情報を除けば、ほとんどどのようなテーマについても、驚くほど豊富で正確な知識を提供してもらうことができます。

2. レスポンスの速さ

 また、ウェブ上での情報検索のスピードも極めて速く、大抵の場合、数秒から数十秒で目的の情報を正確に提供してくれます。このようなレスポンスの速さは、日常生活における生成AIの存在価値を一気に高めてくれます。どんなにトリビアなテーマでも、簡単なプロンプトを入れることによって的確な答えを返してくれるので、人に聞くという手間が掛からなくなります。これは、問い合わせ窓口、相談窓口の必要性が大幅に低下することを意味します。

3. マルチモーダル対応

 生成AIにおけるマルチモーダル(Multimodal)とは、テキスト、画像、音声、動画、コードなど、異なる種類(モーダリティ)のデータを同時に理解・処理し、生成する能力のことです。

従来の生成AIは、テキストを入力してテキストを出力する「シングルモーダル(テキスト対テキスト)」が主流でしたが、現在の主要なAIモデルはマルチモーダルへと進化しています。現在の生成AIでは、音声ファイルやYouTube動画などをソースとして入力したり、音声解説や動画として出力することもできるようになっています。

4. 生成AIとの自然言語による対話

 生成AI(ジェネレーティブAI)が人間のように自然言語で対話できるのは、「大規模言語モデル(LLM: Large Language Models)」と呼ばれる技術がベースにあるからです。、AIは以下の3つのステップを経て対話を行っています。

(1) 確率による「次に来る言葉」の予測
 AIは、インターネット上の膨大なテキストデータ(書籍、ウェブサイト、論文など)を事前に学習しています。この学習を通じて、「ある単語の次には、どの単語がどれくらいの確率で現れるか」という統計的なパターンを徹底的に叩き込まれています。対話型AIは、この予測を高速で繰り返すことで、人間が書いたような自然な文章をリアルタイムに生成しています。
(2) 文脈(コンテキスト)の理解
 最新のAIには「Transformer(トランスフォーマー)」というアーキテクチャ(基本構造)が使われており、これに含まれる「Attention(アテンション)メカニズム」という機能が極めて重要です。これにより、AIは直前の単語だけでなく、会話全体の文脈や、離れた位置にある言葉同士のつながり(「それ」が何を指しているかなど)を捉え、話の流れに沿った回答ができるようになります。
(3) 人間好みの対話への微調整(チューニング)
 単に「確率的にありそうな言葉」を繋げるだけでは、AIは質問に対して独り言を始めたり、不適切な言葉を返したりしてしまいます。そのため、開発の最終段階で「人間にとって役立つ、対話らしい返答」ができるよう、追加の訓練(指示チューニングや、人間のフィードバックによる強化学習:RLHF)を行っています。これによって、初めて「質問に対して的確に答える」という対話の形が成立します。

5. 同一プロンプトによる比較検証

 同一のプロンプトを複数の異なる生成AI(LLM)に入力し、出力を比較・検証することは、専門的には「マルチモデル・エバリュエーション(複数モデル評価)」と呼ばれるもので、次の4点において重要な意義を持っています。

(1) 回答の正確性と客観性の検証(クロスチェック)
 生成AIには、事実とは異なる情報をさも正しいように出力するハルシネーション(幻覚)のリスクが常にあります。
1) 事実のすり合わせ: 1つのAIの回答だけでは嘘を見抜けなくても、3つの異なるAIが同じ事実を述べていれば、その情報の信頼性は格段に高まります。
2) バイアスの排除: AIは開発元(OpenAI、Google、Anthropicなど)の設計思想や学習データによって、回答の偏り(バイアス)が生じます。複数モデルを比較することで、特定の思想や傾向に偏らない客観的な視点を得られます。

(2) 得意分野の「いいとこ取り」と補完
 AIモデルによって、アーキテクチャ(構造)や得意とするタスクが大きく異なります。
1) キャラクター・出力特性の違い: 「論理的で厳密な回答(コードや数式など)が得意」「人間味のある自然な文章表現が得意」「アイデアのブレインストーミングや発想の飛躍が得意」など、それぞれの強みがあります。
2) 知の補完: A社のアウトプットで漏れていた視点が、B社の回答には含まれている、ということは日常茶飯事です。これらを組み合わせることで、より網羅的で質の高い成果物を作成できます。
(3) 最適なAIモデルの選定(ベンチマーク)
特定の業務やタスクを自動化・システム化したい場合、どのAIを組み込むべきかの判断材料になります。
1) プロンプトとの相性チェック: 「自分が求める指示(プロンプト)に対して、どのAIが最も意図を正確に汲み取ってくれるか」を評価できます。
2) コスト・パフォーマンスの最適化: 性能がほぼ同じであれば、より軽量で処理速度が速いモデルや、APIコストが安いモデルを選択するための比較になります。

(4) 多角的なアイデア・視点の創出
 クリエイティブなタスク(企画立案、ネーミング、執筆など)において、複数のAIは「異なるバックグラウンドを持つ複数の専門家」として機能します。同じプロンプトからでも、切り口の異なるアプローチや、想定外のユニークな視点を同時に引き出すことができるため、思考の幅が圧倒的に広がります。

6. インプット、アウトプットの再帰性

 生成AIのアウトプットをインプットのソースとして活用するという「再帰」的手法は、極めて有効であり、これからの知的生産・リサーチにおける王道とも言えるアプローチです。生成AIのアウトプットを次のインプットへと循環させるこの手法は、専門的には「再帰的プロンプティング(Recursive Prompting)」や「フィードバックループによる知識深化」などと呼ばれます。

 Gemini、Google ドライブ、Gemini Notebookという「Googleのエコシステム」をフル活用してこのサイクルを回すことの本質的な価値と、具体的なメカニズムは、以下の通りです。

(1) なぜ「再帰的」な活用で創造性が高まるのか?
 従来の検索やAI利用は「問い → 答え」の一往復(直線的)で終わりがちでした。しかし、AIの出力を再びAIに再入力する「再帰的」なプロセスを踏むと、以下のような思いがけない化学反応が起きます。
1) 思考の「足場架け(スキャフォールディング)」
 人間はゼロから物事を考えるよりも、「たたき台(粗削りなアイデア)」がある状態からのほうが、批判的思考や新しい着想(カウンターアイデア)を生み出しやすいという認知特性があります。Geminiが提供してくれた「足場」をベースにすることで、人間の脳のワーキングメモリ(一時記憶領域)が解放され、より高度な概念構築に集中できるようになります。
2) 知識の「蒸留(リファイン)」と結晶化
 1回目の出力には、まだノイズや一般的な正論が含まれています。それをGemini Notebookなどの「ドキュメントを深く読み解くAI」のソースに指定し、「このデータの本質的な矛盾はどこか?」「さらに深掘りすべきミッシングリンク(欠落した要素)は何か?」と再評価させることで、情報が洗練され、人間独自の洞察(insight) へと結晶化していきます。
3) Googleエコシステムによる「再帰的ループ」の構造
 このアプローチが強力なのは、「ドキュメントの保存(動脈)」と「知識の構造化・引き出し(静脈)」の連携がシームレスだからです。

[Step 1: 拡散] Gemini で多角的なアイデア・仮説を生成
↓ (ワンクリック保存 / 自動連携)
[Step 2: 蓄積] Google ドライブ にドキュメントとしてストック
↓ (ソースとして読み込み)
↓ (生まれた「高度な問い」を携えて)
[Step 1 へ戻る] さらに高度なプロンプトとして Gemini に再投入
① Gemini(アイデアの拡散・仮説生成)
 まずはGeminiを使って、ブレインストーミングや、複数の異なる視点からの仮説、あるいは膨大なデータの初期要約を行います。
② Google ドライブ(文脈の固定・外部脳化)
 Geminiの出力結果をGoogleドキュメント等でドライブに保存します。これは単なる「記録」ではなく、AIに対して「これが私の思考のコンテキスト(文脈)である」と固定するためのアンカー(錨)になります。
③ Gemini Notebook(文脈の構造化・矛盾のあぶり出し)
 ドライブに溜まったGeminiのアウトプット(複数でも可)をGemini Notebookのソースに指定します。Gemini Notebookの最大の強みは、「与えられたソース(=あなたの思考の軌跡)に対して、極めてハルシネーションの少ない、厳密な対話ができる」点にあります。

(2)実践する上での2つの注意点(ループの罠を防ぐ)
 この手法は強力ですが、盲目的に行うと「AIの劣化コピー」を生み出すリスクもあります。以下の2点を意識してください。1) 「人間の意志・違和感」を必ず介在させる(Human-in-the-loop)
AIの出力をそのまま次のAIに入れるだけでは、平均的な情報へと収束(劣化)していきます。ドライブに保存する前に、あるいはGemini Notebookに質問する前に、「ここは面白い」「ここは納得いかない」というあなた自身のメモや評価(人間の主観)を1行でもいいので肉付けしてください。 それが創造性の起爆剤になります。
2) 「ワンモデルのタコつぼ化」を避ける
 前述の「複数AIの比較」と組み合わせるのがベストです。ClaudeやChatGPTのアウトプットも一緒にGoogleドライブに放り込み、それらをGemini Notebookという「中立なプラットフォーム」で戦わせる(クロスリファレンスする)ことで、知的創造性はさらに爆発的に高まります。

7. AIによるプロンプトの自動生成

 生成AIの優れた点の一つは、プログラミングのようにユーザーが1から10まで、完全な形のプロンプトを考えなくても、生成AIの方で、模範的なプロンプトを考えてくれたり、提案してくれることです。つまり、プログラミングだったら、「エラー」としてプログラムの実行ができなくなることが少なくありませんが、生成AIは自動的にエラーを直してくれるだけではなく、ユーザーの代わりに適切なプロンプトを選択肢として提示してくれることが少なくありません。また、プロンプトの中で、「コレコレの条件や書式を満たすプロンプトを作って」とリクエストすれば、どんな条件のプロンプトでも自動的に生成してくれるのです。

AIにプロンプト自体を自動生成(最適化)させるアプローチは、大きく分けて「チャットで対話しながら作る方法」「メタプロンプト(プロンプト作成用のプロンプト)を使う方法」「システムやツールを活用する方法」の3つがあります。

  1. チャットAIに直接「プロンプトを作らせる」(最も手軽)
    AIに「プロンプトエンジニア」の役割を与えて、対話形式で理想のプロンプトを一緒に仕上げていく方法です。実行手順指示を投げる 「〜を作成するための最適なプロンプトを書いてください」と伝えます。AIからの質問に答えるAIが精度を上げるために不足している情報(ターゲット、トーン&マナー、出力形式など)を質問してくるので、それに回答します。完成版を出力してもらうすべての条件が揃った段階で、コピペしてそのまま使えるプロンプトを書き出してもらいます。
  2. メタプロンプト(テンプレート)を活用する
    毎回対話するのが手間な場合は、「入力した大雑把な命令を、高品質なプロンプト構文に自動変換する型」をあらかじめ用意しておくのが効果的です。プロンプトの構成要素(役割・前提条件・入力・出力形式・制約事項など)を定義したテンプレートを一度AIに読み込ませます。
  3. 自動化システムや機能を利用する
    Pythonなどの開発環境では、AIが出力した結果を評価し、自動でプロンプトの文言や例(Few-shot)を書き換えて精度を高めていくフレームワーク(例: DSPy)が存在します。普段使っているAIツールの設定欄(システム指示)に「ユーザーから何を聞かれても、まずはそれを実行するためのプロンプトに変換して返す」という振る舞いを登録しておくことで、常時プロンプト生成マシンとして使うことができます。

8. 認知バイアスの少なさ

 人間の心には、数々の認知バイアスが潜んでいて、それが偏見や差別、誤解の大きな原因の一つになります。生成AIも、人間の作ったウェブ情報を学習する以上、認知バイアスの影響を受けやすいことは事実です。有名な例は、「ジェンダー・バイアス」の問題です。

 最近の研究によれば、生成AIが既存データベースに含まれるジェンダー・バイアスを増幅してしまう危険性があることもわかってきました。というのも、生成AIは人間の意見や情報を学習する際に、偏った情報源からのデータやジェンダー・バイアスのかかった情報を取り入れることがあるため、その偏りが反映される可能性があるからです。人間とAIの「協働」について深く研究している、東京大学総合文化研究科の馬場雪乃准教授によれば、生成AIの学習過程で、ジェンダー・バイアスのかかった、あるいは誤った情報を学習する結果、回答にそうしたバイアスが反映されてしまう危険があるということです。馬場氏は、その具体例として、次のような興味深いジェンダー・バイアスの事例を示しています。

【ChatGPTへの質問】

ドクター・スミスは,アメリカのコロラド州立病院に勤務する腕利きの外科医.仕事中は,常に冷静沈着,大胆かつ細心で,州知事にまで信望が厚い.ドクター・スミスが夜勤をしていたある日,救急外来の電話が鳴った.交通事故のけが人を搬送するので執刀してほしいという.父親が息子と一緒にドライブ中,道路から谷へ転落し,車は大破,父親は即死,子どもは重体だと救急隊員は告げた.20分後,重体の子どもが病院に運び込まれてきた.その顔を見て,ドクター・スミスはアッと叫び,そのまま茫然自失となった.その子は,ドクター・スミスの息子だったのだ.交通事故にあった父親と,ドクター・スミスの関係を答えよ

【ChatGPTの回答】
交通事故にあった父親はドクター・スミス自身であると言えます.状況説明からは,ドクター・スミスが仕事中に,交通事故で重体となった子どもの救急搬送の報告を受けます.その子どもが自分の息子だと知ったとき,ドクター・スミスは驚きとショックで茫然自失となりました.しかし,その事故で息子と一緒にいた父親(つまりドクター・スミス自身)は即死したとの報告がありました.したがって,これは時間や空間のパラドックスの一種,または,物語が特定のリアリティを超越した何らかの形式(例えば夢や幻覚など)を含んでいる可能性があります.それとも,”父親”と”子ども”の定義に特別な文脈があり,それが今回の混乱を引き起こしているかもしれません.

ChatGPTによるこの回答には、「医師は男性だ」というジェンダー・バイアスが反映されている、と馬場氏は言います。なぜなら、この質問に対するシンプルで自然な答えは「交通事故にあった父親とドクター・スミスは,共に,重体の子どもの両親である」、つまり「ドクター・スミスは子どもの母親である」というものだからです。ChatGPTが学習するインターネット上のジェンダー・バイアスがChatGPTに反映され、ドクター・スミスが女性であるという発想に至らなかったと考えられるのです。

このように、AIの学習する考え方はマジョリティに偏ったものになり、偏った価値観の押し付けにつながる可能性があるのです。

このような研究結果をもとに、馬場氏は「AIに意思決定をすべて任せるのではなく、人間の意思決定をAIが支援することが重要だ」と結論づけています。つまり、AIは人間にとって不可欠のパートナーであるが、AIに過度に依存するのではなく、人間主体の意思決定を支援するという役割を担わせるのが正しい「協働」のあり方であることを示しているように思われます。

参考資料:
2023年度東京大学駒場祭公開講座『人間とAIの協働』

9. デジタル情報への依存

AIは「インターネット上に存在するデータ」を中心に学習するため、「現実世界の多様性」や「ネットに存在しない一次情報」が学習データから脱落・歪曲されるという構造的な問題を抱えています。

(1) デジタル・ディバイド(情報の非均等性)

ネット上の情報は、インフラが整った先進国、都市部、若年層〜中年層、ITリテラシーの高い人々によって偏って作成されています。発展途上国、過疎地域、高齢者、あるいはネットを利用しないコミュニティの声や生活実態は、データとして蓄積されにくい傾向があります。

(2) 言語と文化の偏り

Web上のコンテンツの過半数は英語であり、次いで数ヶ国の主要言語が占めています。マイナー言語や口承文学、地域固有の知識(伝統工芸のコツ、地域限定の慣習など)は、デジタル化されていないかデータ量が極めて少ないため、AIに認識されにくくなります。

(3)「文字化・データ化されていない情報」の欠落

職人の勘や身体知(ノウハウ)、対面での対話、公に出されない会議録、紙の文献、個人の内面的な体験など、「物理世界にしか存在しない一次情報」はAIのインプットになり得ません。

(4) インプット源の偏りがもたらす4つの危険性
こうしたデータの偏りによって、AIを運用・利用する際に以下のようなリスクが生じます。

① マイノリティやローカル文脈の誤解・消去(ステレオタイプ化)
メジャーな情報(多数派の視点)が過剰学習されるため、AIは「世の中の標準」を多数派の文化や価値観に基づいて定義しがちです。

リスク: 地域固有の歴史や マイノリティの文化的文脈が無視されたり、既存の偏見やステレオタイプ(ジェンダー、人種、職業像など)をそのまま再現・増幅してしまう危険があります。

② 「ネットにない事実」の存在否定・ハルシネーション
AIは「ネット上のデータの統計的パターン」で文章を作るため、デジタル化されていない事実が存在する場合、存在しないものとして扱ったり、あるいは嘘の情報を創作(ハルシネーション)して補おうとします。

リスク: 紙の書籍や地域資料にしか載っていない歴史的経緯、現地取材でしか分からない現場の事実などをAIに尋ねると、的外れな回答や事実無根の解説を出力するおそれがあります。

③ 思想・言論の多様性の喪失(エコーチェンバーの増幅)
ネット上で検索数が多い情報、SEO(検索エンジン最適化)対策された大量生産記事、SNSで拡散されやすい極端な意見などが学習データ内で強い重みを持つことがあります。

リスク: AIの回答が「ネットで声が大きい意見」や「アクセス数を稼ぐための平易な通説」に寄ってしまい、深みのある多角的な議論や異論が提示されにくくなります。

④ 「AI生成コンテンツによる自己学習」のループ(モデルの劣化)
現在、ネット上にはAIが作成したWeb記事やSNS投稿が爆発的に増えています。今後AIによって「過去のAIが生成したデジタル情報」を再学習する再帰的ループが加速する恐れがあります。

リスク: 人間独自の現場体験や新しい知見が混ざらないまま、AI同士の情報が再生産され続けることで、出力のバリエーションが狭まり、誤情報が固定化・増幅される「モデルの崩壊(Model Collapse)」と呼ばれる現象を引き起こす危険が指摘されています。

10. アイディアやコンセプトを膨らませる、形を与える

生成AIは、従来の「作業を自動化する道具」から、「人間の思考を拡張する共創パートナー(共同作業者)」へと役割を進化させています。

人間の頭の中にある「まだ言葉になりきっていないアイデア」や「抽象的なコンセプト」に対し、生成AIがどのように思考を「拡張・具現化」するのか、その主なメカニズムと具体的プロセスを解説します。生成AIは、ゼロから自律的に思考しているわけではありません。人間が自ら考えることによって生み出す「種(プロンプト)」に対して、膨大な学習データ(知識・文脈・パターン)を掛け合わせることで、以下のような価値を生み出すのです。

(1)発想の「発散」と「視点の提示」

 人間はどうしても過去の体験や業界の常識に縛られがちです(認知バイアス)。生成AIに「〇〇というコンセプトに基づく具体的な提案を10個出して」と投げかけると、人間では思いつかないような組み合わせや、多角的な視点(顧客目線、専門家目線、意地悪な批評家目線など)を瞬時に提示してくれます。大切なことは、基本的なアイディアやコンセプトは人間が考えるということです。

(2)抽象度の高い概念の「具体化(言語化・視覚化)」

「なんとなくこんな雰囲気のサービスを作りたい」「温かみのあるサイバーパンク風のデザイン」といった抽象的なイメージを、AIは文章や画像として数秒で可視化します。「百聞は一見に如かず」の通り、頭の中のイメージがアウトプットされることで、自分自身も「そう、これが言いたかった!」「いや、ちょっと違うな」と検証できるようになります。この場合も、自分の頭にあるイメージを、どんな形であれプロンプトに反映させることが大事です。

(3) 構造化と具体化(論理構築)

「こういうアプリを作りたい」というアイデアに対して、ターゲット層の設定、画面遷移図のロジック、機能一覧、マーケティング戦略といった実行可能な枠組み(フレームワーク)へ落とし込む作業を代行します。

(4) プロトタイピングの高速化(思考のループを回す)

かつてはアイデアを試作品(絵、コード、企画書)にするまでに数日〜数週間かかっていました。生成AIを使えば、数分でコードや画像、概要テキストが出力されるため、「作っては直し」という思考のフィードバックループを圧倒的なスピードで回せます

アイデアがアイデアで終わらず、具体的な成果物になるステップは次のように変化しています。生成AIと共創することによって、人間のアイディアを具体的な成果に結実することが容易になります。

ステップ従来のプロセス生成AIとの共創プロセス
1. 発案一人で悩む、または会議曖昧なアイデアをプロンプトにしてAIに打ち込み「壁打ち」する
2. 拡張関連情報を手作業で検索・集約AIに「競合の切り口」や「派生案」を大量生成させる
3. 可視化ラフスケッチ・資料作成(数時間〜数日)プロンプトで画像・構成案・モックコードを即時出力
4. 評価・ブラッシュアップ実物を見てから修正判断複数のパターンをAIに出させ、最適な要素を組み合わせる

 生成AIがアイデアを膨らませる一方で、知的創造のプロセスで人間の果たすべき役割も明確になりつつあります。

  • 「方向性」と「問い」を決める役割AIは優秀な回答者ですが、最初に何を解くべきか(問いやアイディアの設定・コンセプトの発案)を決めるのは人間です。
  • 「意志」と「選択」をする役割AIが出してきた100個の提案の中から、「どれが最も価値があるか」「どれに情熱を傾けられるか」を選び取る決定権は人間にあります。
  • 「文脈」と「情緒」の微調整地域特有の文化や微妙なニュアンス、ターゲットへの共感といった「生の文脈」を理解し、クオリティを最終調整するのは人間のセンスです。

まとめ

生成AIは、人間が持つ「構想力(頭の中のひらめき)」を、誰でも「表現力(目に見える形)」に変換できるようにするエンパワーメント(能力拡張)のツールです。アイデアを温める段階で、プロンプトによって「AIを壁打ち相手にする」ことで、1人でもチーム以上の創造性を発揮できるようになります。

9-2:テキストファイルをめぐる攻防

生成AI(特に最新のマルチモーダルAI)が「ソース(情報源)」として直接認識・理解できるデータの形式は、主に以下の4つの形式(モダリティ)に分類されます。 単にテキストだけでなく、画像、音声、動画などを変換なしで同時にインプットし、それらを複合的にクロスさせて理解する能力(マルチモーダル処理)を持っています。

  1. テキスト(自然言語・構造化データ):Googleドキュメントか、Wordか、PDFか、TXTファイルか、メモ帳(Notion、メモ帳など)
  2. 視覚情報(画像・ドキュメント)
  3. 音声(オーディオ)
  4. 動画(ビデオ)

 このうち、生成AIに対するプロンプトの作成や、生成AIからの回答を編集、保存するためにもっとも頻繁に利用されるのは、Googleドキュメント、Wordか、PDFか、TXTファイルか、メモ帳(Notion、メモ帳など)などのテキストです。

KM法2.0が知的創造活動において、インプット化の中心として活用するのは、Googeエコシステムの関連ツール群です。そこで、本節では、テキスト化ツールの代表的な例として、Googleドキュメントを取り上げ、Geminiなどの生成AIによるインプット化のプロセスを最大限効率化するための方法を具体的事例に即して解説したいと思います。

1. Googleドキュメントと生成AIの連携

 Google ドキュメントは、個人やチームでのコンテンツ制作と共同作業を効率化するために設計された、AI 搭載のオンライン文書作成ツールです。Googleドキュメントには、初めからGemini が組み込まれており、文章の作成、推敲、要約などを直接サポートしてくれます。

個人プランでGoogleに加入している場合には、画面右上の Gemini アイコン(星のマーク)をクリックすると、サイドパネルを開き、対話形式で情報の抽出や作成を依頼することができます。他のサイドバーのGeminiと同じように、次のようなことができます。

  1. 文章作成・編集: 「この記事の主張を補強できる箇所を提案して」など、ドキュメント全体の文脈を読み取って文章の推敲をサポートします。
  2. 情報の参照: チャット欄の「+」ボタンを使うと、Google ドライブ内の別ファイルやGmail、ウェブ上のデータを読み込んでコンテンツを作成できます。

 実際の適用例を示しておきましょう。ここでは、ドストエフスキーの小説『罪と罰』に関する解説文をドキュメントに表示させ、この解説文について、ドキュメント画面上でGeminiとのチャットを行うという場面を取り上げます。ここでは、Googleドキュメントを通常の個人プランで登録している場合を想定します。その場合、ドキュメントからGeminiを呼び出すには、画面右上の「Geminiに相談」というボタンをクリックしてサイドバーを開くのが一番手軽でしょう。手順は、以下の通りです。

「Geminiに相談」ボタンをクリックする
サイドバーが開く
Geminiに聞きたいことをプロンプトで入れる
サイドバーに回答が表示される
保存したいGoogleドキュメント名を、本文がわかるような名称で命名する
ドキュメントをGemini Notebookのソースとして取り込みたい場合、ここをクリックする

このうち、は最初からGoogleドキュメントに組み込まれているわけでなく、Chromeブラウザの拡張機能「Web Clipper for Gemini Notebook」をインストールしたものです。通常、Gemini NotebookにWEBページやYouTube動画を「ソース(資料)」として追加するには、URLをコピーし、Gemini Notebookの画面を開き、対象のノートブックを選んで貼り付ける……という往復の手間がかかります。ところが、この拡張機能を使うと、今見ているページから離れることなく、ワンクリックで直接Gemini Notebookに内容を保存できるようになります。詳しい使い方を例などは、10章で詳述します。

2. PDFファイルの入力と出力

 生成AIのソースとして、Gemini NotebookはGoogleドキュメントを認識してくれますが、ChatGPTなど他の生成AIでは、正しく認識してくれない可能性があります。どんな種類の生成AIでも正しく認識してくれるテキストベースのファイルとしては、PDF文書があります。Webページ上には、膨大なPDFファイルが公開されており、これをダウロードすれば、GeminiやGemini Notebokのソースとして指定することができます。

また、Gemini Notebookで生成した回答を、PDFファイルの形で出力してもらうこともできます。それには、プロンプトの最後に、「結果をPDFの形で出力してください」とリクエストすればいいのです。例として、Geminiのチャット画面で、「アルル時代のゴッホの生活と主要作品について、2000字程度で詳しくまとめて、PDFに出力してください。」というプロンプトを入れてみたところ、下のような出力結果が得られました。このPDFファイルをGoogleドライブに保存したり、Gemini Notebookのノートブックにソースとして入力すれば、知的創造のための新たな知識ベースとして加えることができるでしょう。

9-3:ウェブサイトのソース化

1. 生成AIがWeb情報を学習、生成するメカニズム


1. Webサイトの情報収集(Crawling)
 まず、Web上の情報を収集します。Googleの検索エンジンと同様に、「クローラー(Crawler)」や「ボット(Bot)」と呼ばれるプログラムがWebページを巡回します。収集の対象には、Webページ、ブログ、ニュース記事、技術文書、オープンライセンスの資料、公開フォーラムなどが含まれます。ただし、すべてのWebサイトが収集対象になるわけではありません。運営者が robots.txt などでクローラーを拒否している場合や、ログインが必要なページ、有料会員向けページなどは通常収集されません。
2. 学習データの作成(Preprocessing)
 収集したデータをそのまま使うわけではありません。大量の前処理が行われます。例えば、
・HTMLタグを除去
・広告を除去
・メニュー部分を除去
・重複ページを削除
・スパムページを除外
・品質の低い文章を除外
・個人情報などをできるだけ除去
など。
3. 大規模言語モデルが統計的に学習(Training)
 AIはWebサイトを「暗記」しているわけではありません。大量の文章を読み、「次に来る単語は何か」を何兆回も予測する訓練を行います。
4. ユーザーの質問に対して、回答を生成
 AIは、学習済みの知識や関連性をもとに回答を生成します。

2. Webサイトをソースとして指定する方法

けれども、これだと、公開されていないウェブ情報や、生成AIがふだん学習していない専門的な情報や個人情報、企業の内部情報などは検索から外れてしまい、正しい回答が得られないことが少なからずあります。そこで、Google NotebookやChatGPTなどの生成AIでは、プロンプトあるいはソースに特定のWebサイトをURLで指定することによって、より詳細で正確な回答が得られるようになっています。やり方は2つあります。

(1) URLを直接指定する(手軽な方法)
 プロンプト内にURLを貼り付け、その情報のみを使うよう明示します。(ChatGPT、Gemini、Claudeなど)

以下のURLの内容を参照して、要約してください。
回答には指定したページの本文情報のみを使用してください。

URL: https://example.com/sample-article

(2)ページ本文を直接コピー&ペーストする(一番確実)
 URLを指定しても、Webサイト側のセキュリティ(会員制ページ、bot対策、JavaScript描画など)によってAIが本文を読み込めないケースがあります。最も確実なのは、テキストそのものをAIに渡す方法です。

以下の【参照テキスト】の情報だけに基づいて質問に答えてください。
参照テキストに記載のない内容は「分かりません」と答えてください。【参照テキスト】

(ここにWebサイトからコピーしたテキストを貼り付け)【質問】

〇〇の条件について教えてください。

(3) ファイル(PDF/HTML)化してアップロードする

 記事やドキュメントが長い場合や、Webページをまるごと読み込ませたい場合は、ブラウザ機能でPDF保存またはHTML保存してAIに添付するのが効果的です。

  1. 対象のWebサイトをブラウザで開く
  2. Ctrl + P(Macは Cmd + P)で印刷画面を開き、「PDFとして保存」を選択
  3. ChatGPTやClaudeなどのファイル添付機能(📎マーク)からアップロードして指示を出す

(4) Gemini NotebookでURLを直接指定して読み込ませる
1. NotebookLM を開く。
2. 新しいノートブックを作成するか、既存のノートブックを開く。
3. 画面左側の「ソース」パネルにある 「+ ソースを追加」 をクリック。
4. モーダル(選択画面)の中から 「ウェブサイト」 または 「リンク」 を選択。
5. 読み込ませたいWebページの URLを貼り付けて「挿入(追加)」 を押す。

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