Sherlock Holmes Museum : Photo by givingnot@rocketmail.com

ロンドン聖地巡礼「シャーロック・ホームズ」(準備編)

 

青い柘榴(ざくろ)石 The Adventure of the Blue Carbuncle

(『青い柘榴石』事件の舞台となった場所。地図上の赤い線は、
ホームズとワトソンが事件を解き明かすために歩いたルート。)

鵞鳥から出てきた青い柘榴石

あるクリスマスの朝、知り合いのメッセンジャーをしているピーターソンがよく肥った1羽の鵞鳥と帽子をホームズ宅に持ち込みました。なんでも、午前4時頃にトテナム・コート・ロードでひとりの背の高い男が鵞鳥をかついでいたが、とつぜん狼藉者たちに襲われたのを目撃し、助けようと駆け寄ったところ、男も狼藉者も鵞鳥を放り出して逃げてしまったのだということでした。持ち主が分からなかったため、ホームズのところに持ち込んだというわけでした。鵞鳥についていたカードの宛名と送り主のイニシャルとから、ホームズは持ち主がヘンリー・ベイカーだと推測しました。

(ピーターソンを見て、男と狼藉者たちは逃げてしまった
Illustration by Sydney Paget )
ワトソンとホームズがそんな推理をしていたとき、ピーターソンが部屋に飛び込んできました。なんと、自宅に持ち帰って妻が調理しようとした鵞鳥の餌袋から、大きな青い柘榴石が出てきたのです。ワトソンはそれを見て思わず「モーカー伯爵夫人の青い柘榴石じゃないか!」と叫びました。ホームズは、そうだと言い、賞金1000ポンドが出ている宝石で、5日前に盗まれたものだ、と説明しました。

(ピーターソンは、妻が見つけた大きな柘榴石をホームズとワトソンに見せました
Illustration by Sydney Paget )
ホームズは事件当時の新聞を探し出し、読み上げました。

"Hotel Cosmopolitan Jewel Robbery. John Horner, 26, plumber, was brought up upon the charge of having upon the 22nd inst., abstracted from the jewel-case of the Countess of Morcar the valuable gem known as the blue carbuncle. James Ryder, upper-attendant at the hotel, gave his evidence to the effect that he had shown Horner up to the dressing-room of the Countess of Morcar upon the day of the robbery in order that he might solder the second bar of the grate, which was loose. He had remained with Horner some little time, but had finally been called away. On returning, he found that Horner had disappeared, that the bureau had been forced open, and that the small morocco casket in which, as it afterwards transpired, the Countess was accustomed to keep her jewel, was lying empty upon the dressing-table. Ryder instantly gave the alarm, and Horner was arrested the same evening; but the stone could not be found either upon his person or in his rooms. Catherine Cusack, maid to the Countess, deposed to having heard Ryder's cry of dismay on discovering the robbery, and to having rushed into the room, where she found matters as described by the last witness. Inspector Bradstreet, B division, gave evidence as to the arrest of Horner, who struggled frantically, and protested his innocence in the strongest terms. Evidence of a previous conviction for robbery having been given against the prisoner, the magistrate refused to deal summarily with the offence, but referred it to the Assizes. Horner, who had shown signs of intense emotion during the proceedings, fainted away at the conclusion and was carried out of court.

単語と意味:

plumberbrought upabstractedupper-attendatsoldergratebureaucaskettranspiredepose dismay franticallyprevious convictionmagistratesummarilyAssizefaint away
配管工
(...の罪で)告発する、(法廷に)出頭させる
...を盗む、抜き取る
上級係員
はんだ付けにする
鉄格子
(引き出し付きの)書き物机
(宝石などを入れる)小箱
...ということが知れ渡る
...ということを証言する
ろうばい、仰天、不安(恐怖、絶望)
死に物狂いで
前科
治安判事
略式で、即座に
(英史)(通例〜s; 複数扱い)(民事・刑事の)巡回裁判
卒倒する、失神する
日本語訳:

ホテル・コスモポリタンで宝石盗難。ジョン・ホーナー(26)配管工、が今月22日、モーカー伯爵夫人の宝石箱から「青い柘榴石」として知られる高価な宝石を盗み出した容疑で告発された。ホテルの上級係員ジェームズ・ライダーの証言によると、盗難のあった当日、ホーナーを伯爵夫人の化粧室に案内し、緩んでいた鉄格子の二番目の棒を修理させた。しばらくホーナーと一緒にいたが、呼び出されたため、最後はその場を立ち去った。戻ってみると、ホーナーの姿はなく、書き物机がこじ開けられており、のちになって分かったのだが、伯爵夫人が日頃から宝石を保管していたモロッコ皮製の小箱が化粧台の上に空のまま置かれていたという。ライダーはただちに警報を鳴らし、ホーナーは同日夕方逮捕された。しかし、宝石は彼の身体からも部屋からも発見されなかった。伯爵夫人の召使い、キャサリン・キューザックは、窃盗を発見して驚きの声を上げたライダーの叫び声を聞き、部屋に飛び込んだが、そこで先の目撃者が記述した通りの状況を見たと証言した。B管区のブラッドストリート警部によると、ホーナーは逮捕時に死に物狂いで抵抗したが、強い調子で自分は無実だと抗議したという。被告に対して盗みの前科があったという証拠が出されると、治安判事はこの事件に対する略式裁判を拒否し、巡回裁判に付した。ホーナーは、公判中激しい感情の起伏を示していたが、裁決のあと失神し、法廷の外に運び出された。

鵞鳥の持ち主の証言

ホームズは、宝石が出てきた鵞鳥の持ち主と思われるヘンリー・ベイカー氏を見つけ、彼がこの事件と関わっているかを確かめることにした。そこで、ヘンリー・ベイカー氏宛に、ベイカー街221B番地まで来てくれるようにという新聞広告を載せました。いったん仕事で自宅に戻ったワトソンが午後6時半頃ホームズ宅に行くと、ちょうどヘンリー・ベイカーが訪れたところだった。ベイカーは帽子と鵞鳥が自分のものだと認めたが、「鵞鳥は食べてしまいました」というホームズの言葉に驚きの表情を見せました。しかし、ホームズが戸棚の上においた別の鵞鳥を示して、「これはあなたがなくしたものとまったく同じ重さの新鮮な鵞鳥なので、これで納得していただけると思いますが」と言うと、ベイカー氏は安堵したように「ええ、もちろんですとも」と答えました。これで、ベイカー氏は盗難事件とは無関係であることがはっきりしたというわけです。

ホームズはベイカー氏に帽子と鵞鳥を渡した後、「なくした鵞鳥はどこで手に入れたのですか」と尋ねました。ベイカー氏は、次のように答えました。

"Certainly, sir," said Baker, who had risen and tucked his newly gained property under his arm. "There are a few of us who frequent the Alpha Inn, near the Museum—we are to be found in the Museum itself during the day, you understand. This year our good host, Windigate by name, instituted a goose club, by which, on consideration of some few pence every week, we were each to receive a bird at Christmas. My pence were duly paid, and the rest is familiar to you. I am much indebted to you, sir, for a Scotch bonnet is fitted neither to my years nor my gravity." With a comical pomposity of manner he bowed solemnly to both of us and strode off upon his way.
(from Conan Doyle, "The Adventure of the Blue Carbuncle" )

単語と意味:

tuckinstituteconsiderationbonnetgravitypompositystride off
(衣服などの)端に押し込む、はさみ込む
設ける、制定する
報酬、心付け
(男性用)にベレー帽
(態度、性格の)厳粛さ、まじめさ
尊大さ、尊大な態度
大股で歩いて行く
日本語:

「かしこまりました。」ベイカー氏は立ち上がって、新しく所有したガチョウを腕にはさんで言った。「私どもの仲間数人が、昼間は大英博物館で過ごしているのですが、博物館の近くにあるアルファ・イン(Alpha Inn)によく出入りしておりましてね。今年に入って、ウィンディゲイトという名前の人のいい店の主人が鵞鳥クラブというのを作りました。それに入ると、毎週数ペンスを積み立てるだけで、クリスマスに鵞鳥をもらえるんです。私は約束通りきちんと支払いまして、そのあとのことはご存じの通りです。帽子を返していただいたことには大変感謝申し上げております。といいますのは、スコッチのベレー帽は私の年齢にも真面目な性格にも合っておりませんので。」滑稽なほど尊大な態度で、彼は私たち二人にうやうやしくお辞儀をして大股で歩いて部屋を出て行った。

 

(ベイカー氏は、うやうやしくお辞儀をすると、部屋を出て行った
Illustration by Sydney Paget )

事件の手がかりを求めて

ベイカーが立ち去ったあと、ホームズとワトソンは事件を解決する手がかりを求めて、アルファ・インに向かいました。ベイカー街からアルファ・インまでの道のりは、およそ上の地図(赤い線)に示す通りです。アルアファ・イン(地図の1617)に着くと、ホームズは店の主人にビールを注文してからこう言いました。

"Your beer should be excellent if it is as good as your geese," said he.
"My geese!" The man seemed surprised.
"Yes. I was speaking only half an hour ago to Mr. Henry Baker, who was a member of your goose club."
"Ah! yes, I see. But you see, sir, them's not our geese."
"Indeed! Whose, then?"
"Well, I got the two dozen from a salesman in Covent Garden."
"Indeed? I know some of them. Which was it?"
"Breckinridge is his name."
"Ah! I don't know him. Well, here's your good health landlord, and prosperity to your house. Good-night."
(from Conan Doyle, "The Adventure of the Blue Carbuncle" )

日本語訳:

「君のところの鵞鳥と同じくらい旨いなら、ここのビールもきっと旨いだろうね。」と彼は言った。
「うちの鵞鳥ですって!」男は驚いたようだった。
「ああ、ぼくはたった30分前に、君のところの鵞鳥クラブの会員だというヘンリー・ベイカー氏と話していたんだ。」
「ああ、そうでしたか。でも旦那、そいつはうちの鵞鳥じゃないんですよ。」
「そうかね!じゃ、誰のなんだね?」
「あのね、うちはコヴェント・ガーデンの店主から2ダース仕入れたんですよ。」
「本当に?連中の何人かは知っているんだが。それは誰だったんだい?」
「ブレッキンリッジって名前の男だよ。」
「ああ!そんな男は知らないな。さてと、ご主人の健康とお店の繁盛を祈って乾杯するか。ではご機嫌よう!」

アルファ・インを出たホームズとワトソンは、コヴェント・ガーデン・マーケット(地図の18)へ向かいました。ブレッキンリッジに会い、「アルファ・インに届けた鵞鳥をどこから仕入れたのか」と尋ねると、フレッキンリッジは急に怒りだし、仕入れ先をどうしても教えようとしません。ホームズは一計を案じ、ブレッキンリッジに「アルファ・イン」に届けた鵞鳥がホームズがいうように田舎育ちか、それともブレッキッジのいうように町育ちなのか賭けをしようと言いました。ブレッキンリッジはこれに応じ、仕入れ先の帳簿を持ち出し、鵞鳥が町育ちであることを証明しようとします。

"That's the list of the folk from whom I buy. D'you see? Well, then, here on this page are the country folk, and the numbers after their names are where their accounts are in the big ledger. Now, then! You see this other page in red ink? Well, that is a list of my town suppliers. Now, look at that third name. Just read it out to me."
"Mrs. Oakshott, 117, Brixton Road—249," read Holmes. "Quite so. Now turn that up in the ledger." Holmes turned to the page indicated. "Here you are, 'Mrs. Oakshott, 117, Brixton Road, egg and poultry supplier." "Now, then, what's the last entry?" "'December 22d. Twenty-four geese at 7s. 6d.'" "Quite so. There you are. And underneath?" "'Sold to Mr. Windigate of the Alpha, at 12s.'" "What have you to say now?" Sherlock Holmes looked deeply chagrined. He drew a sovereign from his pocket and threw it down upon the slab, turning away with the air of a man whose disgust is too deep for words.
(from Conan Doyle, "The Adventure of the Blue Carbuncle" )

犯人は?

ホームズは、賭けで誘うことによって、まんまと仕入れ先がオークショット夫人であることを聞き出すことに成功したのです。そのとき、ブレッキンリッジの店で、店主と小男が口論しているのが聞こえました。小男は、オークショット夫人から仕入れた鵞鳥の中に自分のものが混じっていたんだ、と言い張っています。小男が店主に追い出されて、逃げていくのをホームズは追いかけ、彼を捕まえます。この男こそは、真犯人のコスモポリタン・ホテルの上級係員ジェームズ・ライダーでした。ライダーを伴ってベイカー街に戻ったホームズは、男の犯行を暴き、白状させます。ライダーはホームズに許しを乞います。(つづきは原作をお読み下さい)

(ホームズに許しを乞うライダー
Illustration by Sydney Paget )

(『青い柘榴石』 おわり)

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