ヨーロッパ聖地巡礼 フォトエッセイ

ロンドン聖地巡礼「シャーロック・ホームズ」(準備編)その2

第二のしみ The Adventure of the Second Stain

(物語に登場するロンドン市内のスポット)


(『第二のしみ』 from "The Complete Sherlock Holmes", Top Five Books, 2014 )

コナン・ドイルは当初、この作品をもって「シャーロック・ホームズ」を終わりにするつもりだったようです。そのため、本作品では、シャーロック・ホームズが探偵業を引退して、サセックスの丘陵地帯に移り住み、探偵学の研究と養蜂に専念するという設定になっています。この作品は、ホームズ引退後にワトソンが現役時代の最後の事件を物語るという形式をとっています。事件が起きた年月日も伏せられています。

大政治家からの依頼

とある日のこと。英国の首相を務めたこともあるベリンガー卿と、有力な若手政治家のヨーロッパ担当大臣のトリローニー・ホープ氏がホームズ邸を訪れ、深刻な問題について依頼しました。依頼の内容は、ホープ氏が紛失した重要書類を取り戻してほしいというものでした。もしこの書類の内容が漏れれば、国際紛争を招きかねないとのことでした。

(2人の大政治家がホームズを訪ねてきた)

ホープ氏はその書類を、首相官邸(34)からホワイトホール・テラスの自宅(39)に持ち帰り、寝室の文書箱に保管していました。それが、翌朝になると、この文書がなくなっていたのです。

ウェストミンスターの殺人事件

ホームズは、これが国際スパイの仕業とみていましたが、その有力候補3人のうちの一人、エドアルド・ルーカスが何者かによって殺害されるという事件が起きました。事件が起きたのは、ゴドルフィン街16番地(35)でした。刃物で刺されて死んでいるのが見つかりました。室内を物色した跡はみられなかったということです。

その後、パリ発の新聞報道があり、パリ在住のアンリ・フールネイ夫人が、被害者の愛人であり、ウェストミンスターの犯行に関わったものと推測されるとの記事内容でした。問題は、ルーカスが問題の文書を手に入れたのかどうか、いまその文書がどこにあるのか、ということでした。

絨毯のしみの謎

そこに、現場で捜査していたレストレード警部からホームズに連絡が入り、面白いものを発見したという知らせがありました。ホームズは、さっそくワトソンとともに犯行現場に行きました。犯行のあった部屋の真ん中には血のついた四角い絨毯が敷いてありました。レストレードが発見した面白いものとは、この絨毯のことでした。

"Well, you know, after a crime of this sort we are very careful to keep things in their position. Nothing has been moved. Officer in charge here day and night. This morning, as the man was buried and the investigation over —so far as this room is concerned—we thought we could tidy up a bit. This carpet. You see, it is not fastened down; only just laid there. We had occasion to raise it. We found—"
"Yes? You found—"
Holmes's face grew tense with anxiety.
"Well, I'm sure you would never guess in a hundred years what we did find. You see that stain on the carpet? Well, a great deal must have soaked through, must it not?"
"Undoubtedly it must."
"Well, you will be surprised to hear that there is no stain on the white woodwork to correspond."
"No stain! But there must—"
"Yes; so you would say. But the fact remains that there isn't." He took the corner of the carpet in his hand and, turning it over, he showed that it was indeed as he said.
"But the underside is as stained as the upper. It must have left a mark."
Lestrade chuckled with delight at having puzzled the famous expert.
"Now I'll show you the explanation. There IS a second stain, but it does not correspond with the other. See for yourself." As he spoke he turned over another portion of the carpet, and there, sure enough, was a great crimson spill upon the square white facing of the old-fashioned floor. "What do you make of that, Mr. Holmes?"
"Why, it is simple enough. The two stains did correspond, but the carpet has been turned round. As it was square and unfastened it was easily done."
The official police don't need you, Mr. Holmes, to tell them that the carpet must have been turned round. That's clear enough, for the stains lie above each other—if you lay it over this way. But what I want to know is, who shifted the carpet, and why?"
I could see from Holmes's rigid face that he was vibrating with inward excitement.

(from Conan Doyle, "The Adventure of the Second Stain")

単語と意味:

tidy upsoakwoodworkchuckle
きちんと片付ける
(月額933円)に液体に)たっぷり浸す
家屋の木造部、木工品
(気分よく)くすくす笑う、ほくそ笑む

日本語訳:

「さて、ごぞんじの通り、この種の犯罪の後では、私たちは現場をできるだけそのままに保存します。何一つ動かしてはいません。警察官が24時間見張りをしています。けさ、死体は埋葬され、現場検証も終わったので、この部屋に関する限り少し片づけてもいいかと思いました。問題はこの絨毯です。ごらんの通り、床に止めてはありません。そこに敷いてあるだけです。その絨毯を持ち上げる機会がありました。そこで何を見つけたかというと、、」

「ええ、それで何を見つけたのですか?」

ホームズは期待するように顔を引き締めた。

「それがですね。私たちが見つけたものは、あなたが決して予想もしないだろうものでした。絨毯についているしみが見えますか?さて、大量の血が絨毯にしみこんだはずですよね?」

「間違いなく、そのはずです。」

「ところが、白い床の対応する部分にはまったくしみがついていないと聞いたら、さぞびっくりなさるでしょう。」

「しみがない!でも、そんなはずは...」

「ええ、そうおっしゃると思いました。しかし、しみがないというのは確かな事実です。」

彼は手で絨毯の端をとって裏返し、彼の言う通りであることを示した。

「しかし、裏側は表側と同じくらいのしみがあるんだ。床にもなんらかの跡が残るはずだ。」

レストレードは、高名な専門家を戸惑わせたという喜びで、思わずほくそ笑んだ。

「さて、私が説明しましょう。第二のしみは確かにありました。しかし、それは別のしみとは一致しません。ご自分で確かめてください。」

話しながら彼は絨毯の別の部分をめくってみせた。すると、古風な床の四角い白い表面に真っ赤な大きな血の跡があった。「これをそう説明されますか、ホームズさん?」

「いやなに、それは簡単なことさ。二つのしみは一致していた。だが、絨毯の向きが変えられていたんだ。絨毯は四角で止めていなかったから、それは簡単にできたのさ。」

ホームズさん、絨毯の向きが変えられていたことは、あなたから説明していただかなくても分かりますよ、ホームズさん。こういう風に絨毯の向きを変えれば、しみは上下重なることは明らかですから。でも、私が知りたいのは、誰が絨毯を後化したのか、そして何故なのか?ということなのです。」

ホームズが内心興奮していることが、そのこわばった表情から見て取れた。

 

(レストレードは絨毯の端をとって見せた)

ホームズは、口実を設けてレストレードと現場の警察官を一時他の部屋にやると、すぐに絨毯をめくり上げ、床を丹念に調べました。その結果、床板の一枚がはがれることを発見し、その下の穴をのぞきましたが、何も見つかりませんでした。そして、レストレードが戻る前に床板を元通りに戻しました。警官によると、前日、若い女が来て現場を見たいと言いだし、しばらくの間、女が一人で現場にいる時間があったことがわかりました。

事件の解決

このあと、ホームズは、トリローニ・ホープ夫人を訪ね、夫人に対して、問題の書簡を渡すようにと頼みました。夫人は怒りに体を震わせましたが、夫人が殺人現場から書簡を持ち去ったという動かぬ証拠を突きつけると、観念した夫人は遂に自らの行為を認め、書簡をホームズに引き渡しました。ホームズはその書簡を大臣の文書箱に戻し、事件は公になることなく、一件落着となりました。

(『第二のしみ』 おわり)

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