キャントリル『火星からの侵入』パニック研究プロジェクト
調査研究は、Cantrilを中心に行われ、1940年に、『火星からの侵入?パニックの心理学に関する研究』(The Invasion from Mars : A Study in the Psychology of Panic)として出版され、大きな反響を呼んだ。ある意味で、オーソン・ウェルズの『火星からの侵入』ラジオ放送が全米にパニックを引き起こしたとする「通説」は、本書によってデータ的な裏付けを与えられ、定着したといっても過言ではない。 しかし、このラジオ放送は本当に全米に一大パニックを引き起こしたのだろうか?それは事実を誇張したものではなかったのか、あるいは一部にみられた混乱を過大評価したものではなかったのか?といった批判が、その後、社会学者を中心に出され、通説に修正が加えられるにいたっている。以下では、こうした問題点を中心に、Cantrilらの調査結果をレビューしてみることにしたい。
調査の概要
Cantrilらの調査結果は、主として、事件「現場」に近いニュージャージー州に住む135人の人びとに対する詳細なインタビュー調査をもとにしている。つまり、ラジオドラマで火星人が上陸し、州兵を相手に破壊的な殺戮を行ったとされる地域の住民が調査の対象者として選ばれたのである。Cantrilはその理由として、「この放送によって混乱状態に陥ったという理由から選ばれた」と述べている。また、放送にびっくりした人たちの名前の大半は、個人的に問い合わせたり、インタビューアーが探し出したものである」という。つまり、調査対象に代表性はなく、きわめて偏ったサンプルが調査対象になっていたのである。いわば、放送によってパニック状態に陥った人々だけが調査対象になっていたといっても過言ではない