聖地巡礼「シャーロック・ホームズ」を始めるに当たって
「聖地巡礼」シリーズ第3弾は、ロンドン「シャーロック・ホームズ」編です。私は学生時代から、コナン・ドイルの『シャーロック・ホームズ』を愛読してきました。シリーズは翻訳でほとんど読破したと言ってもいいでしょう。たまたま、今年の8月には、「ホームズ」の舞台となったロンドンを久しぶりに訪問し、2週間滞在する予定になっています。滞在予定のホテルは、ベイカー街から徒歩約15分のところにあります。そこで、これを機会に「シャーロック・ホームズ」を原書で通読し、ホームズゆかりの場所を訪ね歩く旅にもしたいと思いました。その準備として、ローマ、パリと同じように、WP Google Mapsを活用して、「聖地巡礼」ブログを作成したいと思います。
幸い、「シャーロック・ホームズ」の原書は、著作権が切れて「パブリック・ドメイン」になっていますので、原書はそのまま抜粋し、日本文は拙訳で表示することにしたいと思います。「ストランド」誌に掲載されたオリジナルの挿絵(by Sydney Paget)も、適宜引用させていただきたいと思います。原書が膨大であり、かつ、私自身が翻訳をするために、ブログ制作には時間がかかると思います。辛抱強くおつきあいいただければ幸いです。
「シャーロック・ホームズ」ゆかりの場所をチェック
まずは、ロンドン市内にある「シャーロック・ホームズ」ゆかりの場所をチェックしておきたいと思います。いずれも観光名所になっています。シャーロキアン必見のスポットです。
最初に訪れたい場所は、いうまでもなく、あの「ベイカー街221B」にあるシャーロック・ホームズ博物館でしょう。
1. シャーロック・ホームズ博物館
ここは、コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズの第1作となった『緋色の研究』 (A Study in Scarlet) において、ジョン・H・ワトソン博士が、シャーロック・ホームズと初めて出会い、ともに部屋をシェアしたアパートメントのあった住所です(地図の1)。正確に言うと、「ベイカー街221B」という住所は実在しません。執筆当時、ベイカー街は100番地までしかありませんでした。したがって、220Bというのは、コナン・ドイルの創作した住所でした。
ワトソン博士は、ホームズと出会ったときのことをこう回想しています。
We met next day as he had arranged, and inspected the rooms at No. 221B, Baker Street, of which he had spoken at our meeting. They consisted of a couple of comfortable bed-rooms and a single large airy sitting-room, cheerfully furnished, and illuminated by two broad windows. So desirable in every way were the apartments, and so moderate did the terms seem when divided between us, that the bargain was concluded upon the spot, and we at once entered into possession.
(Conan Doyle, "A Study in Scarlet", 1887)
私たちは翌日、彼が約束したとおり落ち合い、前日彼が話していたベイカー街221Bの部屋を検分した。そのアパートは、快適な寝室2つと、風通しのよい大きな居間が一つからなっていた。居間にはしゃれた家具がしつらえてあり、広くて明るい窓が2つついていた。そのアパートはあらゆる点で申し分なく、二人で家賃を分け合えば十分に低廉だったので、取引きはその場で決まった。そして、私たちはただちに引っ越すことになった。
(拙訳、以下同様)
このときから、ホームズとワトソンとの長年にわたる共同生活が始まることになります。
日本語の案内は、次のサイトが詳しいです。
http://london.navi.com/miru/67/
2. シャーロック・ホームズパブ
シャーロック・ホームズ博物館でシャーロック・ホームズの世界にたっぷり浸ったあとは、「シャーロック・ホームズパブ」(地図の2)で腹ごしらえをしては如何でしょうか?
このパブは、「ホームズ」シリーズの 最高傑作の一つともいわれる"The Hound of the Baskervilles" (「バスカーヴィル家の犬」) の中で、Sir Henry Baskerville(サー・ヘンリー・バスカーヴィル)が泊まった Northumberland Hotel(ノーサンバーランドホテル)だったとされています。ヘンリー卿とは、この長編小説の中で、非業の死を遂げたチャールズ卿の弟の息子で法定相続人のことで、モーティマー医師とともにホームズを訪ねてきた人物です。このホテルは、ヘンリー卿がロンドンに来たときに泊まっていた所です。その後、ヘンリー卿は犯人から命を狙われて、再三危険な目に会うことになります。この殺人事件が解決したあと、犯人がこのホテルでヘンリー卿を殺害するための道具を手に入れたことが、ホームズによって明かされています。
なお、この建物が小説の舞台となった19世紀の末に本当にホテルだったかどうかは確認されていません。しかし、シャーロキアンにとっては、「シャーロック・ホームズ」の物語を象徴する場所として親しまれています。
Sherlock Holmes had, in a very remarkable degree, the power of detaching his mind at will. For two hours the strange business in which we had been involved appeared to be forgotten, and he was entirely absorbed in the pictures of the modern Belgian masters. He would talk of nothing but art, of which he had the crudest ideas, from our leaving the gallery until we found ourselves at the Northumberland Hotel.
(Conan Doyle, "The Hound of the Baskervilles")
シャーロック・ホームズは、驚くべきすばやさで、自在に気分転換をはかる力を備えていた。私たちが関わっていた奇妙な事件のことなど忘れたように、2時間もの間、ベルギーの近代画に夢中になっていたのである。彼はお粗末な知識しか持っていないのに、画廊を出てからノーサンバーランドホテルに着くまでの間、美術のことしか話さないのだった。
Illustration by Sydney Paget)
シャーロック・ホームズパブを紹介したブログです。
http://blog.his-j.com/london/2014/08/11913259077.html
3. ドイルとホームズがロンドンで初めて住んだ所
次に、シャーロック・ホームズゆかりの場所としてぜひ訪ねたいのは、作者のコナン・ドイルがロンドンで初めて居を構えた場所であり、シャーロック・ホームズがロンドンで最初に住んだ場所でもある、モンタギュー・プレイス(Montague place)です(地図の3)。ちょうど大英博物館(地図の5)の横にありますので、博物館見学のついでに立ち寄ってみたいと思っています。
ウィーンから帰国したドイルは、1891年3月末にロンドンに来て、モンタギュー・プレイス23番地を居住地とし、アッパーウィンポールストリート2番地(デヴォンシャープレイス2番地: 2 Devonshire Place)(地図の6)で眼科医として開業します。しかし、診察に来る患者は少なく、暇な時間を利用して、ドイルは執筆に専念する日々を送るのでした。
「シャーロック・ホームズ」シリーズの中で、「モンタギュー街」(Montague Street)は、ホームズがロンドンで初めて居を構えた場所として紹介されています。この通りは、ドイルが住んでいた「モンタギュープレイス」(Montague Place)とは、大英博物館を挟んではす向かいにあります。正確な住所は分かっていませんが、推定では地図の7の地点だとされています。
“When I first came up to London I had rooms in Montague Street, just round the corner from the British Museum, and there I waited, filling in my too abundant leisure time by studying all those branches of science which might make me more efficient. "
日本語訳:
僕が初めてロンドンに来たとき、大英博物館からすぐ近くのモンタギュー街に部屋を持った。暇を持て余していたんで、僕はこの博物館で、もっと効率的に仕事ができるように、さまざまな科学を研究していたんだ。
(『マスグレーヴ家の儀式』より)
そんなとき、大学時代の友人マスグレーヴがモンタギュー街にあるホームズの自宅を訪れたのです。
4. ミュージアム・タヴァーン
大英博物館の横にある「ミュージアム・タヴァーン : 地図の4」(Museum Tavern)は、ドイルの短編集『シャーロック・ホームズの冒険』の「青い紅玉」(The Adventure of the Blue Carbuncle)に出てくる「アルファ・イン(alpha Inn)」のモデルとされています。現在は、観光客に人気の「ミュージアム・タヴァーン」というパブになっています。喉が乾いたら、ぜひ立ち寄って一杯引っかけてみたいものです。かの有名なカール・マルクスやジョージ・オーウェルもここで疲れを癒やしたそうです。詳しくは本編で再び取り上げたいと思います。
“Certainly, sir,” said Baker, who had risen and tucked his newly gained property under his arm. “There are a few of us who frequent the Alpha Inn, near the Museum—we are to be found in the Museum itself during the day, you understand."
日本語訳:
「いいですとも」とベイカーは言った。彼はもう立ち上がって、新たに得た所有物を小脇に抱えていた。「博物館の近くにアルファ・インという行きつけのパブがあるんですが、昼間は私たちがその博物館にたむろしているところです。」
(『青い紅玉』 The Blue Carbuncle より)
「ベイカーは、重々しく私たちにお辞儀をした」 :
http://shworld.fan.coocan.jp/diary2004/1_london/london_6/6.html
それでは、ロンドン聖地巡礼「シャーロック・ホームズ」開始まで、しばらくお待ち下さい。
Thomas B. Wheeler, The Mapped London of Sherlock Holmes. London Secrets, 2015
John Christopher, The London of Sherlock Holmes. Amberley Publishing, 2012.
Rose Shepherd, Sherlock Holmes's London. CICO Books, 2015.
平賀三郎著『ホームズ聖地巡礼の旅』青弓社, 2010年
Michael Sims, Arthur and Sherlock: Conan Doyle and the Creation of Holmes. Bloomsbury, 2018
コナン・ドイル著『わが思い出と冒険−コナン・ドイル自伝』 延原 謙訳, 新潮社,1965年