Sherlock Holmes Museum : Photo by givingnot@rocketmail.com

ロンドン聖地巡礼「シャーロック・ホームズ」(準備編)

『シャーロック・ホームズの冒険』
The Adventures of Sherlock Holmes

『ストランド』誌に連載された「シャーロック・ホームズ」短編シリーズ

さて、『緋色の研究』、『四つの署名』という2つの長編を出版したとはいえ、1890年までのコナン・ドイルは、まだ医者を本業としていました。1890年8月には、新しい結核治療法を発見したコッホの講演を聞くためにドイツに渡っています。ドイツ滞在中にドイルは眼科医になることを思い立ち、帰国すると11月にはサウスシーの診療所をたたみ、妻とともにロンドンに移り住みました。新しい住所はモンタギュープレイス、眼科として開業した場所はデヴォンシャー・プレイス2番地でした(自伝より。ただし、その後の研究によると、ドイルが開業した場所は、正確には、アッパー・ウィンポール街2番地(2 Upper Wimpole Street)だったようです)。開業したものの、コイルの診療所を訪れる患者はほとんどなく、ドイルはこれを幸いと、空いている時間をもっぱら好きな小説の執筆に費やしたのです。

転機が訪れたのは、ウィーンから帰国後の1891年4月に入ってからです。『ストランド』誌掲載までの経緯を、ドイル『自伝』によって辿ってみたいと思います。

A number of monthly magazines were coming out at that time, notable among which was “The Strand,” then as now under the editorship of Greenhough Smith. Considering these various journals with their disconnected stories it had struck me that a single character running through a series, if it only engaged the attention of the reader, would bind that reader to that particular magazine. On the other hand, it had long seemed to me that the ordinary serial might be an impediment rather than a help to a magazine, since, sooner or later, one missed one number and afterwards it had lost all interest. Clearly the ideal compromise was a character which carried through, and yet instalments which were each complete in themselves, so that the purchaser was always sure that he could relish the whole contents of the magazine. I believe that I was the first to realise this and “The Strand Magazine “the first to put it into practice.

Looking round for my central character I felt that Sherlock Holmes, whom I had already handled in two little books, would easily lend himself to a succession of short stories. These I began in the long hours of waiting in my consulting-room. Greenhough Smith liked them from the first, and encouraged me to go ahead with them.

単語と意味:

instalmentrelish
(全集、連載物の)1回分、分冊
...を好む、楽しむ

その頃、多数の月刊誌が次々に創刊されていた(訳注:『ストランド』誌創刊は1891年1月)。なかでも注目すべきは、『ストランド』誌("The Strand")だった。この雑誌の編集長は、その当時も現在もグリノー・スミス(Greenhough Smith)である。これら種々の雑誌に、関連のないストーリーが掲載されているのを見て、私は思いついた。一人の人物が連載形式で登場し、もしそれが読者の注目を引いたとすれば、その読者を特定の雑誌につなぎとめるのではないだろうか、と。他方で、私は長い間、一つの雑誌にとって平凡な連載物は、助けになるどころか障害になるのではないかと思っていた。というのは、遅かれ早かれ、読者は1号読み飛ばしてしまうと興味を失ってしまうだろうから。明らかに、理想的な妥協点は、一人の人物がシリーズを通して登場し、なおかつ1回分でストーリーが完結するというものだ。そうすれば、読者はいつも雑誌の内容をすべて楽しむことができるという確信をもてるはずだ。これを最初に実現したのは私だと信じているし、それを最初に実行に移したのは『ストランド』誌だったと信じている。中心人物について考えを巡らした結果、すでに2冊の本で取り上げたシャーロック・ホームズが短編の連載にもぴったりなのではないかと感じた。私は診察室で客を待っている長い時間に、連載用の短編を書き始めた。グリノー・スミスは最初からこの短編を気に入り、このまま書きするめるよう私を激励してくれた。

こうして、コナン・ドイルの書いたシャーロック・ホームズを主人公とする最初の短編「A Scandal in Bohemia (『ボヘミアの醜聞』)」は、1891年7月号の『ストランド』誌に掲載され、好評を得ました。第2作は8月号掲載の「The Red-Headed League (『赤毛組合』)で、以後1892年6月まで毎号連載されました。連載であることを明記するために、タイトルの最初には「Adventures of Sherlock Holmmes.」という前書きがつけられました。このシリーズは、当初6号で完結する予定だったのですが、好評だったため、12編まで延長されました。そして、完結後、1892年10月には、『シャーロック・ホームズの冒険』(The Adventures of Sherlock Holmes)として出版されています(冒頭のカバー写真を参照)。

『シャーロック・ホームズの冒険』収録作品

『ストランド』誌に1891年7月号から1892年6月号まで連載された作品の一覧は次の通りです。

A Scandal in Bohemia 『ボヘミアの醜聞』(1891年7月号)
The Red-Headed League 『赤毛組合』(1891年8月号)
A Case Of Identity 『花婿失踪事件』(1891年9月号)
The Boscombe Valley Mystery 『ボスコム渓谷の惨劇』(1891年10月号)
The Five Orange Pips 『オレンジの種五つ』(1891年11月号)
The Man with the Twisted Lip 『唇のねじれた男』(1891年12月号)
The Adventure of the Blue Carbuncle 『青い紅玉』(1892年1月号)
The Adventure of the Speckled Band 『まだらの紐』(1892年2月号)
The Adventure of the Engineer's Thumb 『技師の親指』(1892年3月号)
The Adventure of the Noble Bachelor 『独身の貴族』(1892年4月号)
The Adventure of the Beryl Coronet 『緑柱石の宝冠』(1892年5月号)
The Adventure of the Copper Beeches 『ぶな屋敷』(1892年6月号)

以下では、物語の舞台がロンドンに複数箇所ある短編のみを取り上げ、その概要と舞台になったロンドン市内のスポットを紹介したいと思います。

ボヘミアの醜聞 A Scandal in Bohemia

舞台は1888年3月のロンドン。シャーロック・ホームズのオフィスがあるベイカー街からほど遠からぬところで展開します。

(『ボヘミアの醜聞』の主な舞台)

事件の発端

『四つの署名』事件がきっかけとなって、ワトソンは結婚し、ホームズと別れて幸せな新婚生活を送っていました。1888年3月20日、たまたま往診の帰りに、なつかしいベイカー街を通りかかったとき、ホームズと再会したくなり、ホームズの自宅を訪ねました。相変わらず正確な推理を披露するホームズでしたが、ワトソンに1枚の便箋を見せました。それは、「覆面をした依頼者がある重大な問題について相談するために今夜8時15分前に訪問する」という内容の匿名の手紙でした。

ホームズは紙質や筆跡から、ボヘミアの裕福な人物だという推理を下しました。そうするうちに、件の依頼人が仮面をかぶって現れます。ホームズはワトソンも同席することを相手に承諾させ、フン・クラム伯爵と名乗るこの男性から話を聞きます。男は「事はボヘミア国歴代の君主、オルムシュタイン家にかかわる問題だ」と切り出します。それに対し、ホームズはすぐに依頼人の正体を見破ってこう言いました。

Holmes slowly reopened his eyes and looked impatiently at his gigantic client. "If your Majesty would condescend to state your case," he remarked, "I should be better able to advise you." The man sprang from his chair and paced up and down the room in uncontrollable agitation. Then, with a gesture of desperation, he tore the mask from his face and hurled it upon the ground. "You are right," he cried; "I am the King. Why should I attempt to conceal it?"

単語と意味:

condescendagitationhurl
お高くとまらない、いばらない、へりくだって...する
(人の)動揺、興奮
(物を)強くほうる、投げつける

日本語訳:

ホームズは再びゆっくりと目を開け、依頼人を苛立たしそうな様子で見て、こう言った。「もし陛下がこの件について畏れおおくも仰ってくださいますなら、私は多少なりともご助言申し上げたいと存じます。」男は突然椅子から飛び上ったかと思うと、動揺を抑えられない様子で部屋の中を行ったり来たりした。それから、絶望の身振りをして、自ら顔から仮面を剥いで床に投げ捨てた。「あなたの言うとおり。」と彼は叫んだ。「私は国王だ。なぜ私はそのことを隠そうとしなければならなかったんだろう?」

(ホームズに正体を見破られた依頼人は、仮面をかなぐり捨てます。
Illustration by Sydney Paget

アイリーン・アドラーとの女性問題

相談の内容は次のようなものでした。ボヘミア王は5年ほど前にワルシャワ滞在した折、アイリーン・アドラーという女性と知り合い、愛人関係になった。彼女はオペラでプリマドンナをつとめていたが、現在はロンドンに住んでいる。ボヘミア王は近々結婚することになっているが、アイリーンは二人で撮った写真を持っており、もし国王が婚約すれば写真を送りつけて結婚を妨害する、と脅迫している、というのです。そこで、ボヘミア国王は結婚を滞りなく行うためにも、ぜひアイリーンの持っている写真を盗み出さねばならず、困り果ててホームズに相談を持ちかけたのです。

サンタ・モニカ教会でのハプニング

ホームズはこの依頼を引き受け、さっそくアイリーンの住所を探します。ボヘミア王によると、住所はセントジョンズ・ウッド、サーベンタイン・アベニュー(地図の)のブライオニー・ロッジだいうことでした。ホームズの調査によれば、アイリーンはめったに外出しないが、ゴドフリー・ノートンという弁護士がちょくちょく訪ねてくるということでした。この調査の結果をワトソンに話したとき、ホームズは大きな思い出し笑いをしました。それは、サンタ・モニカ教会(地図の3)で思いがけない出来事に遭遇したからでした。以下は、その一部始終です。

As he stepped up to the cab, he pulled a gold watch from his pocket and looked at it earnestly, 'Drive like the devil,' he shouted, 'first to Gross & Hankey's in Regent Street, and then to the Church of St. Monica in the Edgware Road. Half a guinea if you do it in twenty minutes!'

"Away they went, and I was just wondering whether I should not do well to follow them when up the lane came a neat little landau, the coachman with his coat only half-buttoned, and his tie under his ear, while all the tags of his harness were sticking out of the buckles. It hadn't pulled up before she shot out of the hall door and into it. I only caught a glimpse of her at the moment, but she was a lovely woman, with a face that a man might die for. "'The Church of St. Monica, John,' she cried, 'and half a sovereign if you reach it in twenty minutes.' "This was quite too good to lose, Watson. I was just balancing whether I should run for it, or whether I should perch behind her landau when a cab came through the street. The driver looked twice at such a shabby fare, but I jumped in before he could object. 'The Church of St. Monica,' said I, 'and half a sovereign if you reach it in twenty minutes.' It was twenty-five minutes to twelve, and of course it was clear enough what was in the wind. "My cabby drove fast. I don't think I ever drove faster, but the others were there before us. The cab and the landau with their steaming horses were in front of the door when I arrived. I paid the man and hurried into the church. There was not a soul there save the two whom I had followed and a surprised clergyman, who seemed to be expostulating with them. They were all three standing in a knot in front of the altar. I lounged up the side aisle like any other idler who has dropped into a church. Suddenly, to my surprise, the three at the altar faced round to me, and Godfrey Norton came running as hard as he could towards me. "Thank God," he cried. "You'll do. Come! Come!" "What then?" I asked. "Come, man, come, only three minutes, or it won't be legal." I was half-dragged up to the altar, and before I knew where I was I found myself mumbling responses which were whispered in my ear, and vouching for things of which I knew nothing, and generally assisting in the secure tying up of Irene Adler, spinster, to Godfrey Norton, bachelor. It was all done in an instant, and there was the gentleman thanking me on the one side and the lady on the other, while the clergyman beamed on me in front. It was the most preposterous position in which I ever found myself in my life, and it was the thought of it that started me laughing just now. It seems that there had been some informality about their license, that the clergyman absolutely refused to marry them without a witness of some sort, and that my lucky appearance saved the bridegroom from having to sally out into the streets in search of a best man. The bride gave me a sovereign, and I mean to wear it on my watch-chain in memory of the occasion."
(from Conan Doyle, "A Scandal in Bohemia")

単語と意味:

landauharnesssovereignshabbycabbyclergymanexpostulateknotaltarloungemumblevouch for ...spinsterbeam on ...preposterousbridegroomsally out (forth)sovereign
ランドー馬車(2人乗り4輪馬車)
馬具(一式)
ソブリン貨(旧1ポンド金貨)
みすぼらしい
タクシーの運転手
聖職者、牧師
忠告する、さとす
(人の小さな)群れ、集団
祭壇
ぶらつく
ぶつぶつ言う、つぶやく、小声で言う
...を保証する、...だと保証する、...の保証人になる
未婚女性
(...に)にこにこ微笑む
不合理な、ばかげた。奇妙な
花婿、新郎
(困難を承知で)勇んで出かける
ソブリン貨(旧1ポンド金貨)

馬車に乗り込みながら、彼(ゴドフリー・ノートン弁護士)はポケットから金時計を引き出してじっと見つめていたが、「全速力で走ってくれ」と叫んだ。「まずリージェント街のグロス&ハンキーの店に寄ってから、エッジウェア・ロードのサンタモニカ教会へ行ってくれ。20分以内に着けば半ギニーくれてやるぞ!」

「彼らは走り去った。僕が彼らのあとを追いかけるべきかどうか迷っていたとき、路地から小型の四輪馬車がやってきた。見ると、御者はボタンが半分しかついていないコートを羽織り、耳の下からネクタイをつけ、馬具の革紐は留め金からとび出していた。その馬車が止まるか止まらないかのうちに、彼女が玄関ホールから飛び出してきて、馬車に乗り込んだ。僕は彼女をちらっとしか見ていないが、男なら夢中になりそうなほど魅力的な女性だったよ。

「ジョン、サンタモニカ教会までお願い」。彼女はそう叫んだ。「20分以内に着いたら半ポンドあげるわ」。

「こんな好機を逃すわけにはいかなかったよ、ワトソン。僕は、馬車を追って走るか、それとも馬車の後ろにしがみつくか迷っていたが、ちょうどそのとき通りから一台の馬車がやってきた。御者はみすぼらしい身なりの僕を見て躊躇したが、僕は彼が拒否するより前に馬車に跳び乗っていた。「サンタモニカ教会へ行ってくれ。20分以内に着いたら、半ポンドやろう」と僕は言った。12時25分前だった。もちろん、これからどんなことが起こりそうかの察しはついていたよ。」

「僕の乗った馬車は速かった。これ以上ないという速さだった。でも、彼らのほうが先を行っていた。僕が着いたとき、両方の馬車は、息を切らしている馬とともに教会の扉の前にいた。僕は御者に料金を支払って、急ぎ足で教会の中に入った。中には僕が追ってきた二人と、びっくりした様子の牧師以外にはだれもいなかった。牧師は何やら彼らを諭しているようだった。3人は祭壇の前に立ったまま集まっていた。僕はたまたま教会に立ち寄った無精者といった風情でゆっくりと横の通路を歩いていた。すると突然、驚いたことに、祭壇のところにいた3人が僕の方をふり向いたかと思うと、ゴドフリー・ノートンがものすごい勢いで走ってきたんだ。

「ああ、助かった」と彼は叫んだ。「そこにいるあなた。来て下さい、来て下さい!」

「いったい何ですか?」と僕は尋ねた。

「たった3分間で済みますから、来て下さい。でなければ法的に無効になってしまいますから。」

「僕は半分引きずられるような格好で祭壇に上げられ、どこにいるかも分からないうちに、僕の耳元でささやかれる応答をつぶやき、僕が何も知らないことを保証すると言い、要するに未婚女性であるアイリーン・アドラーを独身男性であるゴドフリー・ノートンに結びつける立会人の役を務めたというわけだった。それはほんの一瞬の間に行われた。そして、一方の側には僕に感謝する紳士、もう一方の側には淑女が一人、正面にはにこにこと僕に微笑みかける牧師がいた。それは生涯でもっとも奇妙きわまりない立場におかれた出来事だった。いまそれを思い出すと、笑い出しそうになるのさ。

(「僕は祭壇上で言われるままにつぶやいていた」 Illustration by Sydney Paget)

アイリーン邸でホームズが打った一芝居

その夜、ホームズは牧師に変装して、ワトソンとともにアイリーンの住むサーペンタイン・アベニューに行き、アイリーンの帰宅を待ち伏せしました。ホームズは、自分がアイリーン宅に運び込まれ、それから数分後に窓が開いて片手が上がるのを見たら、窓から発煙筒を投げ込み、「火事だ!」と叫んでくれ、と頼みます。やがて、アイリーンの乗った馬車が自宅に着きました。(ホームズが事前に手配した)浮浪者の一団が馬車に突進し、騒ぎを起こしました。アイリーンはその騒ぎに巻き込まれてしまいましたが、そこに牧師姿のホームズが飛び込んでいき、アイリーンにもう少しで届くところで叫び声を上げて倒れてしまいました。顔からは血が噴き出していました。

(牧師に変装したホームズは叫び声をあげて倒れた。 Illustration by Sydney Paget )
予定通り、牧師に変装したホームズは、介抱のため邸内に運び込まれ、居間の寝椅子に横にされました。ホームズが息苦しそうな動作をすると、家人は窓に駆け寄って開けてくれました。それと同時に、ホームズは手をあげて合図を送り、ワトソンは発煙筒を投げ込んで「火事だ!」と叫びました。現場は騒然となりましたが、いつの間にかホームズはアイリーン邸を抜け出してワトソンと合流していました。そして、アイリーンが隠していた写真のありかが分かったと告げるのでした。以下は、そのからくりの一部始終です。

"Then they carried me in. She was bound to have me in. What else could she do? And into her sitting-room, which was the very room which I suspected. It lay between that and her bedroom, and I was determined to see which. They laid me on a couch, I motioned for air, they were compelled to open the window, and you had your chance."
"How did that help you?"
"It was all-important. When a woman thinks that her house is on fire, her instinct is at once to rush to the thing which she values most. It is a perfectly overpowering impulse, and I have more than once taken advantage of it. In the case of the Darlington substitution scandal it was of use to me, and also in the Arnsworth Castle business. A married woman grabs at her baby; an unmarried one reaches for her jewel-box. Now it was clear to me that our lady of to-day had nothing in the house more precious to her than what we are in quest of. She would rush to secure it. The alarm of fire was admirably done. The smoke and shouting were enough to shake nerves of steel. She responded beautifully. The photograph is in a recess behind a sliding panel just above the right bell-pull. She was there in an instant, and I caught a glimpse of it as she half-drew it out. When I cried out that it was a false alarm, she replaced it, glanced at the rocket, rushed from the room, and I have not seen her since. I rose, and, making my excuses, escaped from the house. I hesitated whether to attempt to secure the photograph at once; but the coachman had come in, and as he was watching me narrowly it seemed safer to wait. A little over-precipitance may ruin all."
"And now?" I asked.
"Our quest is practically finished. I shall call with the King to-morrow, and with you, if you care to come with us. We will be shown into the sitting-room to wait for the lady; but it is probable that when she comes she may find neither us nor the photograph. It might be a satisfaction to his Majesty to regain it with his own hands."

単語と意味:

overpoweringrecessrocketA little over-precipitance may ruin all
強力な、抗しがたい
奥まった所
発煙筒
せいては事をし損じる
日本語訳:

それから彼らはぼくを家の中に運び込んだ。彼女はやむなくぼくを家に入れた。他にどうすることもできなかった。そして、居間に運んだ。それはまさにぼくが写真のありかだと見当をつけていた部屋だった。写真は居間か寝室のどちらにあり、ぼくはどちらにあるかを確かめようと思った。家人はぼくを長椅子に寝かせた。ぼくが息苦しそうにあえいだので、彼らは否応なく窓を開け、君はチャンスをつかんだというわけさ。
「それ(発煙筒を投げ入れたこと)が君にとってどんな役に立ったんだい?}
「それが実に重要なことだったんだ。ある女性がいて、もし彼女の家が火事になっているのを知ったとすれば、彼女は本能的に自分のいちばん大事にしているものを取りに走るだろう。それは抗しがたい衝動なんだ。ぼくはこれまでにも一度ならずこのことを利用させてもらっている。ダーリントン替え玉スキャンダル事件や、アーンズワース城の事件などがそれだ。既婚の女性なら赤ちゃんをすぐ抱き上げるし、未婚女性なら大切な宝石箱を取りに行く。いまの場合だったら、当の女性にとってこの上もなく大切なものは、僕らが探しているもの以外にはないはずだ。彼女はそれの老いてあるところへ駆けつけ、安全を確保するだろう。火災警報は見事に効果を発揮した。煙と叫び声は、彼女の鋼のような神経も震わせた。彼女はまさに思惑通りの反応を示した。写真は右側あの呼び鈴の真上にある引き戸の奥の方にしまってあった。彼女はあっという間にそこへ行き、ぼくは彼女が半分ほど写真を引っ張り出すのをちらっと見た。僕が火事の警報が間違いだ、と叫んだとき、彼女はそれを元に戻し、発煙筒をちらっと見てから、部屋から飛び出していった。それっきり、彼女の姿はなかった。ぼくは起き上がって、言い訳をしながらこの家を退散したというわけだ。ぼくはそのとき、すぐにも例の写真を確保しようと試みようかとも思った。しかし、御者が入ってきて、僕をじっと見ていたので、ここは待つに如くはないという気がした。せいては事をし損じるというからね。」
「それで、これからどうするんだね?」
「ぼくらの調査は終わったも同然だ。ぼくはあすボヘミア王と一緒にアイリーン宅を訪問するつもりだ。よかったら君も一緒に来ないか。ぼくらはきっと、居間に通されてレディーを待つことになるだろう。だが、彼女が来たときには、ぼくらは写真とともに消えている可能性が高いだろう。ボヘミア国陛下は写真を取り戻してさぞご満悦だろう。

 

意外な結末

翌朝、ホームズ、ワトソン、ボヘミア王が連れ立ってアイリーン宅に行ってみると、なんとアイリーンはすでに出て行った後でした。彼らがアイリーンの居間で見つけた写真は、ボヘミア王とのツーショットではなく、アイリーンの写真でした。ボヘミア王は嘆息をもらします。ホームズのとった策略は見破られ、見事に裏をかかれたのでした。詳しい結末は小説をごらんください。

(ホームズらが見つけた写真は... Illustration by Sydney Paget )

(『ボヘミアの醜聞』 おわり)

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