Sherlock Holmes Museum : Photo by givingnot@rocketmail.com

ロンドン聖地巡礼「シャーロック・ホームズ」(準備編)

ギリシャ語通訳 The Adventure of the Greek Interpreter

(物語に登場するロンドン市内の場所)

マイクロフト・ホームズ

ある夏の夕方、ホームズはワトソンに初めて実兄について話をしました。そして、懐中時計を引き出しながら、「これから兄のマイクロフトを紹介するよ」と言うのでした。


(ホームズは懐中時計をひきだして言った。
Illustration by Sydney Paget )

「兄はぼくよりも観察力が鋭いんだよ」とホームズは言いました。「君より年下なのか?」「7つ年上だ」「ではなぜ、彼は無名なんだい?」「いや、彼は内輪のサークルでは有名だよ」「それはどこにあるんだい?」「例えば、ディオゲネス・クラブだよ」。
「ディオゲネス・クラブというのは、ロンドンでも指折りの風変わりなクラブで、マイクロフトも風変わりな男の一人だ。彼はいつも午後5時15分前から8時20分前までそこにいるんだ。いま6時だ。もしよかったら、天気もいいことだし、この奇妙なクラブと奇妙な人物を紹介しよう。」とホームズがワトソンに言いました。

それから5分後には、ホームズとワトソンは通りに出て、リージェント・サーカス(地図の19)に向かって歩いていました。ホームズが言うには、マイクロフトは観察力と推理力には長けているが、その方面の野心とエネルギーには欠けていました。しかし、数字にはめっぽう強く、政府のある部署で会計検査の仕事をしているとのことでした。マイクロフトはポール・モール(地図の21)に住んでおり、毎朝、勤務先のホワイトホール(地図の18)に行き、毎晩帰宅するという生活をしていました。自宅の真後ろにあるディオゲネス・クラブ(地図の21)が彼の出向く唯一の場所でした。

ディオゲネス・クラブは、ロンドンでもっとも社交嫌いの人たちのために設立されました。ここでは、他の会員に関心を払ってはいけないことになっています。接客用の部屋以外では話すことも禁じられていました。マイクロフトはこのクラブの発起人の一人でした。

ホームズとワトソンは、セント・ジェームズ街(地図の20)を南下して、ポールモール街に入りました。そして、カールトン・クラブ(地図の22)から少し距離をおいた所にある建物の前で立ち止まり、話をしないようにと私に注意してから、先に立ってホールに入っていきました。

ホームズは、ワトソンを小さな部屋で待たせたあと、兄のマイクロフト・ホームズを伴って戻ってきました。マイクロフトは、がっしりした体つきの背の高い男で、シャーロックと同じような鋭い顔つきをしていました。


(マイクロフト・ホームズ
Illustration by Sydney Paget )

ギリシャ人通訳の恐怖の体験談

ひとしきり歓談したあと、マイクロフトがシャーロックに奇怪な事件の話を持ち出しました。ホームズが興味を示したのを見て、マイクロフトはメラスというギリシャ系の通訳を呼び出し、驚くべき体験談を聞かせました。メラス氏はロンドンで一番のギリシャ語通訳といわれる有名人でした。2日前の月曜日の夜、ラティマーと名乗る若い男がメラス氏を訪ねてきて、ギリシャの友人が仕事でギリシャ語の通訳を必要としているので、ケンジントンまで一緒に来てほしいと頼みました。メラス氏は、せき立てられるように辻馬車に乗せられ、チャリング・クロス(地図の26)を抜け、シャフツベリ通り(地図の28)を走って行きました。そこからオクスフォード街(地図の29)に出たので、不審に思い、ケンジントンへ行くには回り道ではないかと尋ねると、向かいに座ったラティマーは威嚇するように棍棒を取り出し、両側の窓を引き上げて、外が見えないようにしてしまいました。


(男は窓を引き上げ、外が見えないようにした。 Illustration by Sydney Paget )

2時間ほど走ったところで、馬車は止まり、屋敷に通されました。中にいた中年男にメラスは用件を尋ねました。

"'What do you want with me?' I asked.
"'Only to ask a few questions of a Greek gentleman who is visiting us, and to let us have the answers. But say no more than you are told to say, or —' here came the nervous giggle again—'you had better never have been born.'
"As he spoke he opened a door and showed the way into a room which appeared to be very richly furnished, but again the only light was afforded by a single lamp half-turned down. The chamber was certainly large, and the way in which my feet sank into the carpet as I stepped across it told me of its richness. I caught glimpses of velvet chairs, a high white marble mantel-piece, and what seemed to be a suit of Japanese armour at one side of it. There was a chair just under the lamp, and the elderly man motioned that I should sit in it. The younger had left us, but he suddenly returned through another door, leading with him a gentleman clad in some sort of loose dressing-gown who moved slowly towards us. As he came into the circle of dim light which enables me to see him more clearly I was thrilled with horror at his appearance.
He was deadly pale and terribly emaciated, with the protruding, brilliant eyes of a man whose spirit was greater than his strength. But what shocked me more than any signs of physical weakness was that his face was grotesquely criss-crossed with sticking-plaster, and that one large pad of it was fastened over his mouth.

(from Conan Doyle, "The Adventure of the Greek Interpreter" )

単語と意味:

gigglearmourcladtab4emaciatedprotrudecriss-crosssticking-plaster
くすくす笑い、忍び笑い
よろいかぶと、甲冑
着た、(...に)覆われた
content4
(病気、栄養不足などで)やつれた
((...から)突き出る、はみ出る、(目が)とび出ている
(...に)十文字(の模様)を書く、縦横に線を引く
(英)ばんそうこう(=plaster)

「私に何をしてほしいのですか?」と私は尋ねました。
「私どもを訪ねて来ているさるギリシャの紳士にいくつか質問をしていただき、返答をもらうだけです。ただし、こちらの話す以上のことを言ってはなりません。さもないと...」 −ここでまたもや神経質な忍び笑いをしながら、「生まれてこなければよかったと思いますぞ。」
「こう言うと、彼はドアを開け、豪華に装飾された部屋に招き入れました。この部屋にもランプは一つだけで、しかも半分しかついていませんでした。部屋はたしかに大きく、私が歩いて行くと、足が絨毯に沈み込むので、豪華なものだということが分かりました。ビロードを張った椅子や背の高い白大理石のマントルピースや日本製の甲冑のようなものが目に入りました。ランプの下には椅子があり、年配の男が身振りで私に座れと言いました。若い男は離れて行きましたが、突然別のドアから一人の紳士を伴って戻ってきました。この紳士はだぶだぶのガウンを羽織り、ゆっくりと私たちの方に近づいてきました。彼が弱い光の輪の中に入ってきたとき、彼の顔がはっきり見えたのですが、その容貌を見て、私は恐怖のあまり戦慄しました。
彼は死んだように青ざめ、恐ろしくやつれており、体力よりも精神力の方が勝っているというように、目がとびだし、きらきらと光っていました。けれども、私がなによりもショックを受けたのは、彼の体力が弱っているという兆候以上に、顔中に絆創膏がグロテスクな形で縦横に貼られていて、口の上にも大きな絆創膏が張ってあったことでした。

 

(私は彼の顔を見て、恐怖で戦慄しました。
Illustration by Sydney Paget )

その中年男は、連れて来られた男性に石板と石筆を渡し、メラスに、「こちら言うとおりに彼にギリシャ語で質問をしてください。すると彼はギリシャ語で答えを書きますから」と言いました。そして、まず書類にサインする気があるかどうか尋ねるように言いました。そこからのやりとりは次のようなものでした。

"'Never!' he wrote in Greek upon the slate.
"'On no condition?' I asked, at the bidding of our tyrant.
"'Only if I see her married in my presence by a Greek priest whom I know.'
"The man giggled in his venomous way.
"'You know what awaits you, then?'
"'I care nothing for myself.'
"These are samples of the questions and answers which made up our strange half-spoken, half-written conversation. Again and again I had to ask him whether he would give in and sign the documents. Again and again I had the same indignant reply. But soon a happy thought came to me. I took to adding on little sentences of my own to each question, innocent ones at first, to test whether either of our companions knew anything of the matter, and then, as I found that they showed no signs I played a more dangerous game. Our conversation ran something like this:
"'You can do no good by this obstinacy. Who are you?'
"'I care not. I am a stranger in London.'
"'Your fate will be upon your own head. How long have you been here?'
"'Let it be so. Three weeks.'
"'The property can never be yours. What ails you?'
"'It shall not go to villains. They are starving me.'
"'You shall go free if you sign. What house is this?'
"'I will never sign. I do not know.'
"'You are not doing her any service. What is your name?'
"'Let me hear her say so. Kratides.'
"'You shall see her if you sign. Where are you from?'
"'Then I shall never see her. Athens.'
"Another five minutes, Mr. Holmes, and I should have wormed out the whole story under their very noses. My very next question might have cleared the matter up, but at that instant the door opened and a woman stepped into the room. I could not see her clearly enough to know more than that she was tall and graceful, with black hair, and clad in some sort of loose white gown.
"'Harold,' said she, speaking English with a broken accent. 'I could not stay away longer. It is so lonely up there with only—Oh, my God, it is Paul!' "These last words were in Greek, and at the same instant the man with a convulsive effort tore the plaster from his lips, and screaming out 'Sophy! Sophy!' rushed into the woman's arms.
Their embrace was but for an instant, however, for the younger man seized the woman and pushed her out of the room, while the elder easily overpowered his emaciated victim, and dragged him away through the other door.

(from Conan Doyle, "The Adventure of the Greek Interpreter" )

単語と意味:

biddinggigglevenomoustab4indignantobstinacyailworm something out of someonecladmake a convulsive effortplasteroverpoweemaciated
命令、言いつけ
くすくす笑う
悪意(憎しみに)に満ちた
content4
憤慨した、怒った、立腹した、憤る
頑固さ、強情
...を苦しめる、悩ます
(..から)情報などを引き出す
(...を)着た、(...に)覆われた
必死に努力する
絆創膏
...を征服する、圧倒する
(病気、栄養不足で)やつれた、痩せ衰えた

日本語訳:

「ぜったい嫌だ!」と彼は石板にギリシャ語で書いた。
「どんな条件をつけてもか?」と私は暴君の言われるとおりに尋ねた。
「私が知っているギリシャ人司祭によって彼女が結婚するのを私がこの目で見るのでないかぎり駄目だ。」
「男は憎々しげな表情でニタニタ笑いました。」
「それでは、お前がどうなるか分かっているんだな?」
「私はどうなってもいい。」
「こうした質問と返答のやりとりは、私たちの間で半分は口頭で、半分は筆記で交わされた会話の一例です。何度となく、私は彼に降参して文書にサインするかどうか尋ねなければなりませんでした。そして、その度に、怒りに満ちた返答を受け取りました。けれども、しばらくしていい考えが浮かびました。それぞれの質問のあとに、私の聞きたいことをちょっとだけ付け加えることにしたのです。ただし、最初は一緒にいる男達がそのことに気づくかどうかをテストするために、何気ない質問を入れてみました。けれども、彼らが気づく気配がなかったので、もっと大胆なゲームをすることにしました。私たちの会話はこんな具合に進行しました。:
「そんなに強情を張っていると、ためにならないぞ。あなたはだれですか?
「かまわない。ロンドンに初めて来た者です。」
「お前の運命は、お前次第だぞ。ここにはどれくらいいるのですか?
「なりゆきに任せるだけだ。3週間になります。
「財産はぜったいお前のものにはならないからな。何に困っていますか?
「悪者どもには渡さないぞ。彼らは私を餓死させようとしています。」
「もしサインすれば、放免してやるぞ。この家は何ですか?
「ぜったいにサインはしないぞ。わかりません。」
「そうやっていると、彼女のためにはならないぞ。あなたのお名前は?
「彼女がそう言っているのか聞かせてくれ。クラティデスといいます。」
「お前がサインすれば、彼女に会わせてやる。あなたはどこから来たのですか?
「それなら、私は彼女には会わないつもりだ。アテネです。」
「ホームズさん、あと5分あれば、彼らの鼻先ですべての事情を聞き出せるところでした。まさに次の質問で事態が明らかになったかもしれないのですが、その瞬間、扉が開いて一人の婦人が部屋に入ってきたのです。私はそのとき、彼女の背が高くて上品そうだということ、髪は黒くて、薄手の白いガウンを羽織っていること以外分かりませんでした。「ハロルド」と彼女はカタコトの英語で言いました。「私はこれ以上独りではいられないわ。あそこは本当に寂しいところなんですもの。ああ、よかった、ポールなのね!」「この最後の言葉はギリシャ語でした。それと同時に、その男は必死に努力して唇から絆創膏をはがし、「ソフィー!ソフィー!」と叫びながら婦人の腕に飛び込みました。」
「けれども、彼らの抱擁はほんの一瞬しか続きませんでした。若い方の男が婦人を掴んで部屋の外に押しやり、年配の方の男がこのやつれ果てた犠牲者を圧倒して、別の扉から引きずり出してしまったからです。」

  


(ソフィー!ソフィー!
Illustration by Sydney Paget )

このあと、中年男はメラス氏に謝礼として5ポンドを渡し、「このことを他の人に話したら、タダでは置かないぞ」と脅した上で、ラティマー氏が馬車でメラス氏を送り返しました。時刻は深夜の12時半になっていました。馬車が止まったところは、遠くの知らない場所で、鉄道の信号が見えるところでした。メラス氏が途方に暮れてあたりを見回していると、暗闇から男が近づいてきました。それは鉄道員でした。「ここはどこですか?」と聞くと、「ワンズウォース・コモン(地図の30)ですよ」と彼は言いました。「町へ行く列車に乗れますか?」と聞くと、「1マイル歩けば、クラファム・ジャンクション駅(地図の31)につきます。ヴィクトリア駅行きの最終列車に間に合うでしょう」ということでした。こうして、メラス氏は無事に帰還し、恐怖の体験談を話し終えました。

暴かれた悪事

マイクロフトは、この事件について、次のような新聞広告を出して、ギリシャ人の行方を突き止めようとしました。

"'Anybody supplying any information to the whereabouts of a Greek gentleman named Paul Kratides, from Athens, who is unable to speak English, will be rewarded. A similar reward paid to any one giving information about a Greek lady whose first name is Sophy. X 2473.'

日本語訳:

「アテネ出身のポール・クラティデスという名前のギリシャ人男性の行方についての情報を提供してくれた方には報酬を差し上げます。この男性は英語を話せません。ソフィーという名前のギリシャ人女性についての情報を提供してくれた方にも同様に報酬を差し上げます。X 2473.」

ホームズとワトソンが歩いてベイカー街の自宅に帰ってみると、マイクロフトが肘掛け椅子に座って待ち受けていました。


(「入りたまえ」とマイクロフトは穏やかに言った
Illustration by Sydney Paget )

マイクロフトは、新聞広告に反応があったことを知らせました。J.ダヴェンポートという名前で、「広告にある若い女性はいま、ベクナム(地図の33)のマートルズ屋敷に住んでいる」というものでした。投書の主はロウワー・ブリクストンから投函していました。

ホームズは、ギリシャ人の兄の命が危機に瀕していると察知して、メラス氏を連れて現場に駆けつけることにしました。しかし、メラス氏はすでに一人の紳士が迎えに来て、出かけたあとでした。ホームズは、大変なことが起こりそうだ直感して、グレグスン警部を伴って、現場に向かいました。ロンドン・ブリッジ駅(地図の34)に着いたのが午後10時15分前、ベクナム駅(地図の35)に着いたときには10時半をまわっていました。そこから馬車で半マイルほど行くと、マートルズ屋敷に着きました。しかし、犯人達はすでに、屋敷を後にしたことをホームズは馬車のわだちで探知しました。

家の扉は閉ざされていましたが、ホームズが窓をこじ開けたので、ホームズたちはこの窓から室内に入って捜索しました。すると、3階からうめき声が聞こえてきます。ホームズは階段を駆け上がり、ドアを開けて飛び込みました。しかし、すぐに喉に手をあてて出てきました。部屋には木炭が充満していたのです。


(「木炭だ!」と彼は叫んだ
Illustration by Sydney Paget )

Peering in, we could see that the only light in the room came from a dull blue flame which flickered from a small brass tripod in the centre. It threw a livid, unnatural circle upon the floor, while in the shadows beyond we saw the vague loom of two figures which crouched against the wall. From the open door there reeked a horrible poisonous exhalation which set us gasping and coughing. Holmes rushed to the top of the stairs to draw in the fresh air, and then, dashing into the room, he threw up the window and hurled the brazen tripod out into the garden. "We can enter in a minute," he gasped, darting out again. "Where is a candle? I doubt if we could strike a match in that atmosphere. Hold the light at the door and we shall get them out, Mycroft, now!" With a rush we got to the poisoned men and dragged them out into the well-lit hall. Both of them were blue-lipped and insensible, with swollen, congested faces and protruding eyes. Indeed, so distorted were their features that, save for his black beard and stout figure, we might have failed to recognise in one of them the Greek interpreter who had parted from us only a few hours before at the Diogenes Club. His hands and feet were securely strapped together, and he bore over one eye the marks of a violent blow. The other, who was secured in a similar fashion, was a tall man in the last stage of emaciation, with several strips of sticking-plaster arranged in a grotesque pattern over his face. He had ceased to moan as we laid him down, and a glance showed me that for him at least our aid had come too late. Mr. Melas, however, still lived, and in less than an hour, with the aid of ammonia and brandy I had the satisfaction of seeing him open his eyes, and of knowing that my hand had drawn him back from that dark valley in which all paths meet.

単語と意味:

dullflikerbrasstripodlividloomcrouchexhalationgasphurllividdartcongestedprotrudingemaciationmoan
(色などが)明るくない、輝いていない
(灯などが)明滅する、ちらちら見える
真鍮
三脚台
青黒い
ぼんやりと現れる
うずくまる
(煙などを)吐き出すこと、発散
あえぐ、はあはあ息をする
強くほうる、なぐつける、ほうり投げる
青黒い
飛んでいく
うっ血した、充血した
とび出た
やつれ
うめき声
日本語訳:

中をのぞくと、部屋の真ん中に置かれた小さな三脚台のちらちら灯る薄暗く青い炎からの光だけしか見えなかった。それは床に青黒い不自然な円形を投影していた。その奥に私たちは壁にもたれてうずくまっている二人の人物を認めた。開け放ったドアから恐ろしい毒性の気体が漏れ出し、私たちは息が苦しくなり、咳き込んだ。ホームズは梯子をかけ上がって新鮮な空気を入れ、それから部屋に飛び込んで窓を引き上げ、真鍮の三脚台を庭に放り投げた。「すぐに部屋に入れるようになります」と彼はあえぎながら言い、再び部屋から飛び出してきた。「ろうそくはどこにある?あの空気では、マッチをすることもできないかもしれないな。マイクロフト、ドアのところで灯りをかざしておいてくれないか、そうすれば彼らを外に運び出せるだろう。」 私たちはすぐに毒を吸った男達のところへ行き、彼らを明るいホールに引きずり出した。二人とも唇が青ざめ、意識がなかった。顔は膨れて、充血していた。事実、彼らの顔があまりにもゆがんでいたので、黒いひげとがっちりした体つきを見なければ、そのうち一人が、ディオゲネス・クラブでつい数時間前に別れたばかりのギリシャ人通訳であることにきがつかなかったかもしれない。彼の手足は厳重に縛られており、片方の目には殴られた跡があった。もう一人は同じように縛られていたが、背の高い男で、やつれで死にそうな様相を呈しており、顔にはグロテスクな絆創膏がいくつも貼られていた。私たちが彼を床に横たえたときには、うめき声も消え、少なくとも彼の場合は手遅れであることが見て取れた。けれども、メラス氏はまだ生きており、1時間もしないうちに、アンモニアとブランディで私が手当てしたおかげで、彼は目を開けて、死の淵から無事生還したことが確認できた。

メラス氏が語ったところによると、彼はラティアスに再び誘拐され、ベクナムの屋敷で再度通訳をさせたが、ギリシャ人は最後まで屈しなかったので、彼を監禁し、メラス氏には新聞広告の件で裏切ったとして棍棒で殴り、気絶させたということでした。

新聞広告に応じてきた紳士の話によると、監禁されていた女性はギリシャの資産家の娘で、イングランドにいる友人達を訪ねてきたということでした。そして、ハロルド・ラティマーと名乗る青年と知り合い、男は彼女に駆け落ちしようと迫った。アテネにいる彼女の兄はこのことを知り、イングランドに来たが、ラティマーと前科者の仲間の手に落ち、監禁されてしまった、そして、妹の財産を譲るという書類に署名させようとしたのでした。

二人の悪党は娘を連れて逃げ去りました。その後、ワトソンとホームズのもとにブタペストから奇妙な新聞の切り抜きが送られてきました。そこには、女性を連れた2人のイングランド人が悲劇的な死を遂げたという記事がありました。ハンガリーの警察によると、二人は喧嘩となって互いに相手を刺し殺したと推測されるということでした。しかし、シャーロック・ホームズの説は、女性が兄とのことで二人に復讐をはかったのだろうというものでした。

(『ギリシャ語通訳』 おわり)

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