ハイキングルートの変更
ゴルナーグラート駅で、添乗員さんとガイドさんから、今日のハイキングルートを変更してはどうか、との提案が出されました。当初の予定では、ツェルマットに近いフィンでルバッハ駅から1時間ほどのハイキングを予定していたのですが、ゴルナーグラート鉄道で最も人気の高いリッフェルゼーの逆さマッターホルンを見るハイキングコースが、この季節としては珍しく雪解けで歩けるようになっているので、こちらに切り替えてはどうか、との提案でした。これには、メンバー全員一致して賛成し、急遽ハイキングルートの変更が決まりました。これは本当にラッキー!でした。というのも、クラブ・ツーリズムのツアー企画では、この逆さマッターホルンを見るハイキングコースは7月以降出発に限定されていたからです。
(逆さマッターホルンが見られる超人気のハイキングルート)
逆さマッターホルンの奇跡
というわけで、ゴルナーグラード鉄道を一駅乗って、ローテンボーデン駅で下車。今日のハイキングに出発です。マッターホルンを正面に見ながら、リッフェルゼーで美しい逆さマッターホルンを見るという、超贅沢、超人気のハイキングを楽しむことができました。天気も快晴、風もなく、完璧なハイキングを堪能しました。ガイドさんも、こんなことは滅多にないとびっくりしていました。
添乗員さんが、翌日、イタリアにいる友人にLINEでこの写真を送ったところ、同時刻にイタリア側のマッターホルン近くにいた彼女から、「イタリア側からはマッターホルンは雲に隠れて全く見えなかったので、信じられない!」という返事があったそうです。なんとも不思議な話です。これをどう解釈したらいいのか、ただ、「奇跡」としかいいようがありません。
もっとも、旅行の後、日本有数の気候学者である兄(三上岳彦・首都大学東京名誉教授)にこのことを伝えたところ、次のような返信をもらいました。
「逆さマッターホルン、我々も運良く快晴無風で同じ風景を見ましたが、これは感激したのを覚えています。
当日(6月29日)のヨーロッパの天気図を確認してみましたが、午前中はスイスの東側に中心を持つ高気圧に覆われていてスイス側は晴れていたのですが、イタリアの南の地中海に中心をもつ低気圧がマッターホルンの南側に悪天候をもたらしたため、イタリア側では背の低い雨雲に覆われて山頂が見えなかったのでしょう。スイス側は標高も高いので、マッターホルンの向こう側(イタリア側)の低い雲は見えなかったと思います。まあ、こう言ってしまえが奇跡でも何でもないということになってしまいますね。」
これを読んで、一安心しました。逆さマッターホルンがスイス側で綺麗に見えたのに、イタリア側では雲に隠れて全く見えなかったのは、単なる特殊な自然現象であって、「超自然現象」ではなかったことが確認されたからです。
けれども、兄もかつて私と同じ条件で綺麗な逆さマッターホルンを見て感激したことも知り、これは決して単なる偶然ではないとも感じました。
マッターホルンは世にも美しい形状をした名山です。それは長年にわたる氷河の作用で形成された、類稀なる「自然の芸術作品」です。ツェルマットで見た朝焼けのマッターホルンもまた、自然が生み出した壮大なショーでした。そこには、超自然という意味ではなく、自然の造形と魅力を演出する目に見えない世界の存在があるように感じました。