ヨーロッパ聖地巡礼

ロンドン聖地巡礼「シャーロック・ホームズ」(準備編・目次入り)

「ホームズ」シリーズ第1作『緋色の研究』の出版

こうして、名探偵「シャーロック・ホームズ」が誕生したのです。この人物を主人公として書かれたのが『緋色の研究』(A Study in Scarlet)でした。しかし、この小説の船出は決して順調なものとはいきませんでした。1886年5月にドイルがアロウスミス社に送った原稿は、2ヶ月後には送り返されてしまったのです。

最後に、ワードロック社に原稿を送ってみたところ、出版の承諾を得ることができました。ただし、25ポンドで買い取るという条件つきでした。貧窮状態にあったドイルは、やむなくこの条件を飲み、承諾の返事を出しました。その結果、シャーロック・ホームズ第1作『緋色の研究』は、1887年のクリスマスに刊行され、版を重ねることになりました。しかし、ドイルは版権を売り渡してしまったために印税を受け取ることはできませんでした(後に、ドイルはこの作品の版権を高額で買い戻しています)。

(『緋色の研究』が掲載された「ビートンのクリスマス年鑑」 Wikipediaより)

『ストランド』誌における「ホームズ」シリーズの連載と成功

この頃、アメリカではイギリス文学が流行しており、ドイルの『緋色の研究』もアメリカで成功を収めました。『緋色の研究』に目をつけたアメリカの出版社の依頼を受けて、1890年、ドイルは「ホームズ」シリーズの第2作『四つの署名(The Sign of Four )を書き上げ、2月から『リピンコッツ』誌に掲載しました。10月には、イギリスの出版社から単行本が刊行されています。この2冊で、「シャーロック・ホームズ」の骨格が固まり、翌1891年の7月から『ストランド』誌に「ボヘミアの醜聞」が掲載され、幅広い読者の支持を得るに至りました。このあと、1927年まで、「ホームズ」シリーズの短編小説が連載され、大人気を博すことになります。

「ストランド」誌での成功は、挿絵を担当したシドニー・パジェット(Sydney Paget)の才能に負うところも少なくありません。パジェットの描いたシャーロック・ホームズは、作者ドイルの抱いていたイメージとは違っていたとはいえ、近年の映画やテレビに至るまで、ホームズの人物イメージを造形する上で大きな影響を与え続けています(2011年BBC制作の「シャーロック」は、こうしたホームズ像を覆すものといえるでしょう)。

(「ホームズ」シリーズを連載した『ストランド』誌 Wikipediaより)

(Sydney Pagetの描いたホームズとワトソン
『シャーロック・ホームズの冒険』より)

「シャーロック・ホームズ」シリーズ全作品の概要

聖地巡礼「シャーロック・ホームズ」に取りかかる前に、コナン・ドイルが1887年から1927年までの40年間に発表した「シャーロック・ホームズ」シリーズの概要を把握しておきたいと思います。

この間に、計60編(長編4編、短編56編)が発表されています。その内訳は、以下のとおりです。

[長編]
A Study in Scarlet (緋色の研究)
The Sign of Four (四つの署名)
The Hound of the Baskervilles (バスカヴィル家の犬)
The Valley of Fear (恐怖の谷)
[短編集]
The Adventures of Sherlock Holmes (シャーロック・ホームズの冒険)
A Scandal in Bohemia (ボヘミアの醜聞)
The Red-Headed League (赤毛組合)
A Case Of Identity (花婿失踪事件)
The Boscombe Valley Mystery (ボスコム渓谷の惨劇)
The Five Orange Pips (オレンジの種五つ)
The Man with the Twisted Lip (唇のねじれた男)
The Adventure of the Blue Carbuncle (青い紅玉)
The Adventure of the Speckled Band (まだらの紐)
The Adventure of the Engineer's Thumb (技師の親指)
The Adventure of the Noble Bachelor (独身の貴族)
The Adventure of the Beryl Coronet (緑柱石の宝冠)
The Adventure of the Copper Beeches (ぶな屋敷)
The Memoirs of Sherlock Holmes (シャーロック・ホームズの思い出)
Silver Blaze (白銀号事件)
The Cardboard Box (ボール箱)
The Yellow Face (黄色い顔)
The Stockbroker's Clerk (株式仲買店員)
The 'Gloria Scott' (グロリア・スコット号事件)
The Musgrave Ritual (マスグレーヴ家の儀式)
The Reigate Squire (ライゲートの大地主)
The Crooked Man (背中の曲がった男)
The Resident Patient (入院患者)
The Greek Interpreter (ギリシャ語通訳)
The Naval Treaty (海軍条約文書事件)
The Final Problem (最後の事件)
The Return of Sherlock Holmes (シャーロック・ホームズの帰還)
The Adventure of the Empty House (空き家の冒険)
The Adventure of the Norwood Builder (ノーウッドの建築業者)
The Adventure of the Dancing Men (踊る人形)
The Adventure of the Solitary Cyclist (孤独な自転車乗り)
The Adventure of the Priory School (プライオリ学校)
The Adventure of Black Peter (ブラック・ピーター)
The Adventure of Charles Augustus Milverton (犯人は二人)
The Adventure of the Six Napoleons (六つのナポレオン)
The Adventure of the Three Students (三人の学生)
The Adventure of the Golden Pince-Nez (金縁の鼻眼鏡)
The Adventure of the Missing Three-Quarter (スリークウォーター失踪)
The Adventure of the Abbey Grange (僧坊荘園)
The Adventure of the Second Stain - 第二の汚点(第二のしみ)
His Last Bow (シャーロック・ホームズ最後の挨拶)
The Adventure of Wisteria Lodge (ウィスタリア荘)
The Cardboard Box (ボール箱)
The Adventure of the Red Circle (赤い輪)
The Adventure of the Bruce-Pardington Plans (ブルースパーティントン設計書)
The Adventure of the Dying Detective (瀕死の探偵)
The Disappearance of Lady Francis Carfax (フランシス・カーファックス姫の失踪)
The Adventure of the Devil's Foot (悪魔の足)
His Last Bow (最後の挨拶)
The Case-Book of Sherlock Holmes (シャーロック・ホームズの事件簿)
The Adventure of the Mazarin Stone (マザリンの宝石)
The Problem of Thor Bridge (ソア橋)
The Adventure of the Creeping Man (這う男)
The Adventure of the Sussex Vampire (サセックスの吸血鬼)
The Adventure of the Three Garridebs (三人ガリデブ)
The Adventure of the Illustrious Client (高名な依頼人)
The Adventure of the Three Gables (三破風館)
The Adventure of the Blanched Soldier (白面の兵士)
The Adventure of the Lion's Mane (ライオンのたてがみ)
The Adventure of the Retired Colourman (隠居絵具師)
The Adventure of the Veiled Lodger (覆面の下宿人)
The Adventure of Shoscombe Old Place (ショスコム荘)

最近、『シャーロック・ホームズ』シリーズ全60編を、パブリック・ドメインの原文から新たに翻訳し、ウェブ上で無償公開するサイトができました(作者名は不明)。Sidney Pagetらのオリジナル挿絵も入れています。これは、参照する上でたいへん便利なサイトだと思います。

本ブログでは、これと差別化をはかるために、すべての作品に登場するロンドンのスポットをWP Google Mapsでハイパーメディア的に表示するとともに、それに関連する作品の該当箇所を原文と拙訳の両方で紹介するというという形にしたいと思います。目的は、あくまでロンドン「聖地巡礼」の役に立てることにあります。

それでは、『緋色の研究』から『シャーロック・ホームズの事件簿』に至るまで、順を追って、ロンドンの「聖地巡礼」の旅に出ることにしましょう。

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