Kempe指揮「英雄」(ベルリンフィル)のCDとケンペに関する解説書

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隠れた名指揮者ケンペ

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ベートーヴェン「英雄」の思い出

ベートーヴェンとの最初の出会いは、1960年代の中学生の頃でした。最初に聴いたレコードは、たしかケンペ指揮の第3番「英雄」ではなかったかと思います。胸の透くような爽快な演奏で、いかにもナポレオンのような格好いい印象を受けました。ベートーヴェンの交響曲に対するイメージはこのケンペの演奏によって植えつけられたといってもいいでしょう。当時は、もちろんLPレコードの時代でした。

その後、LPレコードの時代がCDに取って代わられるようになると、ケンペのLPもどこかへ行ってしまい、カラヤンなど他の指揮者のCDで聴くようになりました。しかし、ケンペのあの名演奏がいつも懐かしく思い出され、いつか再びケンペの名演奏をCDで聴いいてみたいものだと思っていました。

最近、Amazon MusicやYouTubeで検索したところ、YouTubeに、ストックホルム・フィルハーモニー交響楽団を指揮した演奏がアップされているのを見つけました。これもいい演奏ですが、50年以上前に聴いた演奏とは違いました。Amazon Music Unlimitedには、第2番、第4番、第5番、第6番、第7番、第8番、第9番はありましたが、なぜか第3番はありません。Apple Musicには、第7番と第8番しか収録されていないので、話になりません。また、Tsutaya Discasで検索すると、第1番から第9番まですべて揃っていました。そこで、このうち第3番を取り寄せてみたのですが、これはミュンヘン・フィルとの共演で、やはり昔聴いたのとは違うようでした。

最後に、Amazonストアで検索したところ、1959年9月にベルリンフィルを指揮したときの演奏がCDで発売されていることを知り、さっそく取りよせてみました。それが今日届いたので、ワクワクしてかけてみたところ、まさしく学生時代に聴いたケンペの演奏そのものでした。60年近く前の演奏にもかかわらず、音質も申し分なく、ベートーベンの神髄に触れる名演奏であることを再確認しました。

裄野條著『指揮者ケンペを聴く』によれば、ベルリンフィル演奏の「英雄」は、「スケールの大きさと迫力に事欠かないばかりか、むしろ気宇壮大とすら感じる」と述べられています。「展開部後半から再現部に至ると曲想の変化に合わせてあざといくらいテンポを変えてきたり、思わぬところで鋭く音の出だしを合わせたり、ここぞという決めの音でふっとアクセントを抜いてみたり、と変幻自在です」とあります。

たしかに、後の録音であるミュンヘン・フィルの演奏や、あるいはカラヤンの演奏などと比べると、テンポが全体的にスローでゆったりしていますが、それだけベートーヴェンの神髄に迫った奥行きのある名演奏だと評価することができるでしょう。この演奏は、繰り返し聞いても飽きることはありません。まさに、数ある「英雄」の中でも最高傑作の一つだといっても言い過ぎではないでしょう。

ケンペの生涯と業績

ここで、ケンペとはどのような芸術家だったのか、簡単に振り返ってみたいと思います。

ルドルフ・ケンペ(Rudolf Kempe)は、1910年6月14日、ドレスデン近郊のニーダーポイリッツで生まれました。ドレスデン大学音楽科でオーボエを学び、1929年、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のオーボエ奏者となりました。1935年には指揮者としてのデビューを果たし、以後はバイエルン国立歌劇場の音楽監督、ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場の指揮者、ロイヤル・フィルハーモニーの首席指揮者、チューリヒ・トーンハレ管弦楽団の首席指揮者、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団の主席指揮者などを歴任し、世界的な指揮者として活躍しました。


Rudolf Kempe )

ケンペが得意とした作曲家には、ベートーヴェン、ブラームス、ブルックナー、R.シュトラウス、ワーグナーなどのドイツ人作曲家の他、チャイコフスキー、ドヴォルザーク、スメタナ、ラフマニノフなどがおり、幅広いレパートリーを誇っています。なかでも、ベートーヴェン、ブラームズ、R.シュトラウスの作品はいずれも最高傑作ともいうべき出来映えで、いまだに色あせることはありません。日本では、ミュンヘン・フィルとの「ベートーヴェン全集」が1975年にレコード・アカデミー賞(音楽之友社)を受賞して注目されました。

しかし、期待された来日が実現せず、1976年5月に66歳という若さで急逝したこともあり、最近では忘れられた名指揮者という評価もされています。多くのCDが入手困難な状況にあるのが残念なところです。派手で華やかなイメージで、没後も多くのファンを魅了し続けているカラヤンとは対照的な存在といえますが、音楽のスケール、作曲家の神髄に迫る演奏は、カラヤンをはるかに凌ぐものがあります。

最近は、日本でも伝記が出版されたことなどもあり、再評価が行われているようです。これからももっと多くの人に聴いてほしい名指揮者の一人だと思います。

アマゾンのレビューにみるケンペ「英雄」への評価

ケンペのエロイカには、このベルリンフィルとの録音とミュンヘンフィルとの2つがありますが、この録音はこれまでCDでは聴くことができませんでした。

私がこの演奏と出会ったのは、高校生になった今から30年も前のこと。以来この演奏を何度聴いたか分かりません。大学生のときミュンヘン盤を手に入れましたが、ベルリン盤への思いは益々強まったものです。その後音楽をCDで聴くようになってから久しいのですが、ミュンヘン盤はすぐCD化されてもベルリンフィルとの演奏はなかなかCD化されず、擦り切れたLPをたまに聴くだけで半ば諦めていました。

このベルリンフィルとの演奏は、なんと言ってもその伸びやかで柔らかな響きにあります。第1楽章などゆったりとしたテンポながら、明るい音色で小気味よいリズムが私を包んでくれます。ゆったりとはしていてもそれが緩みにつながらないのもこの演奏の特徴で、特に第2楽章の葬送行進曲で、腹の底にまで音楽が響いてきて泣かせてくれるのもケンペならではです。ブルックナーの8番とともに私にとってのケンペの名盤を今こうしてCDで聴けることに幸せを感じています。

(aki-1956)

この方は1956年生まれのようで、私よりも一回り若いのですが、同じような感想をもつ人がいることを嬉しく感じます。いまこうして、ベルリンフィルの「英雄」を再び手にできたのは、まさに幸運の一言に尽きます。

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